さて、H. ishiharai の♀個体は、1998年6月29日に神奈川県の大山(標高1,252m)の山頂で採集されたものである。
本個体がどのように採集されたのか、採集者であるE氏(あつぎ郷土博物館の学芸員(生物担当):専門は直翅類)に伺ったところ、「大山山頂付近に仕掛けたライト・トラップに飛来したものと思われる」とのことだった。そのライト・トラップは主に蛾の採集が狙いだったこともあり、E氏は本個体の採集そのものは記憶にないとのことだが、そのときはビーティングもスウィーピングもした覚えがなく、ライト・トラップによる採集でしか考えられない、とのことである。
ライト・トラップでの採集というのは、自分には意外であった。本種は、これまでくどくどと説明してきたように、全国で採集例のきわめて限られた種である。1,200m超という高標高でのライト・トラップとはいえ、ライトに誘引される虫であるのであれば、これまで各所で見つかっていないことは、謎と言ってよいのではないか。本種はこれまで京都の貴船、神奈川の箱根と大山という、特に環境面での共通点があるとは思えない場所で採集されているわけであり、本種が特に局所的かつ特殊な生態環境を要するのでないとすれば、過去にどこかのライトに引っ掛かってもおかしくないだろう。したがって、本個体がライトに来たのは、偶然の要因によるものだったのかもしれない。
なお、本個体の記録発表をした文献上には、本個体を検視した平野幸彦氏は「八王子産の標本を検したことがある」と記されている。その八王子産の標本個体は、ナガイムナクボシバンムシではなく、H. ishiharai であった可能性がないとは言えない。もしもそうであれば、本種は東京都にも生息していることになる。ただし、東京都からは、ナガイも H. ishiharai も記録されていない。
結局、本種の生態の確かなヒントを得ることはできなかった。本種については謎が多いままである。
続く。
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