【瀬々敬久監督『最低。』】 音楽的な類推でいえば、時制シャッフルにより過激な語りをくりかえしていたころの瀬々敬久の映画は、前衛的なコラージュ音楽のようだともいえた。この系列は時制間に矛盾の出る『トーキョー×エロティカ』でひとつの頂点を迎え
瀬々敬久『ヘヴンズストーリー』をたぶん八年ぶりくらいに観返した。八年前はアテネフランセでの公開前上映会に行って、そのあとユーロスペースでの公開に行けず、その後の定期上映にも北海道に居住地が移ったため縁がもてず、とうとう実現されたDVD化によ
【瀬々敬久監督『8年越しの花嫁・奇跡の実話』】 いわゆる商業映画を撮るときの瀬々敬久監督の念願は、「どこまで透明になるか」ということではないか。YouTube映像や番組「奇跡体験!アンビリーバボー」、さらには書籍化でも話題となった、卵巣腫瘍によ
【鈴木一平『灰と家』】 鈴木一平は想像力の区分ではコラージュ型の詩作者だ。通常、コラージュは外在領域から収集されたものの選択、配置換え、一堂化、美術化といった方法を透視させるが、彼のばあいはそうではない。ありうべき自己組成をコラージュによ
(承前) 冒頭詩篇「犬のフーツク」をみよう。その一聯・二聯―― 疎開先が決まったのは、一九四四年の六月だったと思う。埼玉県秩父郡の小鹿野村への疎開希望を問う回覧板が届き、私が覗いたときには、すでに「吉田」の欄に鉛筆の丸印があった。 私は初
【マーサ・ナカムラ『狸の匣』】 『哲学の余白に』のジャック・デリダは、隠喩=暗喩を、偽りの生産装置(単位)として敵視する。とりわけそれは哲学的言説にあってはならないものだと。デリダが俎上にのせるのは、A is B構文中のbe動詞、つまり繋辞だ。
【神尾和寿『アオキ』】 このあいだの木曜日(11月30日)は、北大一年生にむけて神尾和寿『アオキ』(編集工房ノア、二〇一六年)の授業をした。以下に備忘を兼ね、その概要をしるしておく。だがそのまえに―― 神尾の詩はとうぜんライトヴァースに分
【鏡順子『耳を寄せるときこえる音』】 鏡順子が生前刊行した詩集は、彼女の二七歳の誕生日の発行日付をもつ『卵のなかは、夜』(詩学社、八一年)だけだった。その後、詩作者・佐々木安美との同棲、結婚、さらには子育てを綴った、さほど多くない詩篇が
【黒沢清監督『予兆 散歩する侵略者 劇場版』】 黒沢清監督『散歩する侵略者』の製作主体WOWOWが、黒沢監督へWOWOW放映用にそのスピンオフドラマの演出を依頼した。全五話(未見)。「劇団イキウメ」の前川知大の同題戯曲が発想源なのはおなじ
【「花の街」三番】 たぶん小学校中学年のクラス合唱課題として、江間章子作詞「花の街」にはじめて接した。中学校でも唄わされた。あまったるい歌。しかもそれは、胸のなかが飽和する息づまりによって「泣ける」歌だとすぐに体感された。不機嫌さが常だっ
【改行詩を読むさいの目安】 ・修辞、主題、語彙が個性的か ・長すぎる(行数が多すぎる)ことはないか ・独善を避けているか ・モチベーションは現実体験から生じているか ・語彙偏愛、または誇らしげな語彙展覧を卒業しているか ・一行目にツカ
ことばの分散は、ことばの綜合を希求する。断層をふくみこんだ「タイトル+詩篇」の現れのなかで、そこにあるすべてのことば=細部が、それぞれのことば=細部と反響しあい、ひとつの全体に向かおうとする気配をかんじさせる。ところが一読後、即座に再読を
【金砂】 きのぼりをしているのはわたしの眼だいちやはげしいあめかぜであれはてるとぬれがきいろいじゅうたんをおおってちりしくということがいちょうのもとですぎさり対いまのおそろしさをおびたけれどもこのまなざしはえだを這いのこり葉のすくなさを
【メモ】 唄うのではなく、書くことを始原とした現在の詩作においては、「文」を反契機に詩が出現するのを手許に待たなければならない。もちろん文の説明性、小説的な時空の連続性(換喩性)は、息をする詩では息によってこわれてゆく(息をしない詩が調
【針】 短針のないとけいのまるさへ愛の上手なひとにいざなわれたうえはらひろみトリオライヴゆびのかこいをたてものにしてしろやくろへはわせるはやさおとをはじくのでなく、つかむそのせつなにすべてこぼれてゆくきのうやあしたなどにじまずいまだけの
【ゼノンたち】 この世にあまたある血のいろの蒲柳はわたしらののぞみがゆらしている線をよわくするためのみちびきだがまるで手まねきにおもえてしまいじしんがていもなくまねかれてゆくいつだつとは橋をえらびあやまることかわもそのものをわたるしくじ
【ろてき】 とうにしんでしまったせんだつのゆめをみるととてもやるせなくいえでまっているといわれながらそのいえにさえたどりつけずにさみしいかわべりをゆきまよったおわりをみすえてじさつするときがひとへのほんとうの時刻だろうそれでもよのなかは
【旅の呼吸】 いつもおくれて車内にあらわれたとびらがとうにしまってからだったにくたいがそんなだとしるものがあらわれにかげをかかげたぶんだけとびらにもうまく寄りそうことができおたるへむかう海が頬でもあふれたひかるかげんでかたほうとなってゆ
【支度】 やがてみずからを架けるものをせおいながらもあるかされるそんなすくせになけてしまうがおもいかえしてみれば樹はみなそのことをかたちにしてなおあるかないだけなのだったげっせまねはそうしてみえたぜいたくが眼にあるのでないがまぶかくあお
版元のミッドナイト・プレスからきのう、ぼくの新刊詩集『橋が言う』がとどいた。嬉しくてつらつら眺めたり、手に持って感触をたしかめたり、いくつかのやりかたで読み返したりして、昨日はやるべき仕事が手につかなかった。やや小ぶり、微妙に正方形から外
【ひかる塩】 ウィリアムフォックスタルボットひかる塩あるカロタイプもて石のようなひとをあらわすためときのながれなどとめるのだはだのさまはひとたびあらくなりはなれてみえるだろうものもたまゆらではなくみらいにひろがるそれでまどべをたたずむす
【自叙】 ふるくなってくるしいときにはとうめいにまもられたまどべからせかいがやわらかくしわむのをじぶんより老いているとながめるまちだにすんだころには鉄路がみえむかいあうあさいみどりもあったすべてつかれるへだてだったがあさひのさしこむまぶ
札幌イベントスペースエディットに、マズルのライブを見に行った。林栄一のアルトサックスを中心に、ダブルドラム、ダブルベース(ひとりはウッドベース、もうひとりはエレキベース)、.ダブルエレキギターという信じられない編成。ちなみにギターのうちの
大量の文字による圧倒感はあっても、これまで自分がもっていた蓮實観はあまり変わらなかった(初学者は必読だろうが)。「わたくしだけが気づいた」小説や映画の細部を突きつけることは基本的にはブラフを機能させるし、否定が論法となるし、読者は「排除と
【角度】 おもいでにはとくゆうの角度がつくたとえば少年期までをすごした家ではまどというまどがふきぬけのようにあかるくみえるせまい階下になじんだ湿る黴くささにからだをわけいらせずっとうえをながめ仰臥していたのだひとについてどうみたかにも角
【よさめ】 あめのやんだのに気づかぬふりで夜道でこうもりをさしつづけたもとより傘をかざすひとのすがたが奇体かつはかないのがせつなくよるには足のはこびがうかびかおのきえるのさえおもいだしたささげかかげるもののないこの世にわかれのあいずをと
【ヨン・サンホ監督『新感染 ファイナル・エクスプレス』】 いっさいが超弩級だ。意味不明なほど盛りだくさんだ。韓国アニメ界のすばらしい才能ヨン・サンホがはじめて実写映画を手がけた『新感染 ファイナル・エクスプレス』は、「ゾンビ」を題材とした
【ふぇあうぇる】 であいがそのままわかれとなる雑踏をゆきあうとはおおよそそんなくるしみをともなっていてならであいのないわかれだけかきものでかんがえるしかないわかれそのものへちかづくために腋や股間やりょうあしのはこびみずからのからだの分岐
ヤボ用で研究室待機のなか読んだ松本圭二の小説が異様に面白かった。松本圭二セレクション第8巻で3篇収録。『さらばボヘミアン』も『タランチュラ』も絶品だったが、より自己現実要素から虚構へと傾斜した最後の『ハリーの災難』が、その分類不能性によっ