【三島有紀子監督『幼な子われらに生まれ』】 開巻後ほどなくして、血縁上「分離」と「無縁の融合」とをしるす、ふくざつな家庭状況がみえてくる。郊外の瀟洒な一戸建から商社に通勤する、中年の主人公・信=浅野忠信を中心に、映画での叙述順ではなく、役
【皮膚の心】 はんそでのころもをうばわれひふ、だけとなってぼうぜんとけしきのなかをながれているぼさつの掌紋によってまるめられかたちづくられうすく鞣されたこのまはだかのけいばつのひふは市電ぞいのあさのひかりをすいかげのひややかさと日のぬく
【爪】 つめがうすいのですぐのびてみずからのあまりやあやまりをなんどもきらねばならないとぐためのはしらなどほしいがおおよそのはしらはとおくにありあめのなかでけぶりあげていてとおくへゆびがふれることはないあめは聴くものだ移るものだときのま
(承前) ただしそうした事実的な歩行のヴァリエーションよりも、この映画の「語法」が歩行的だという点が重要だろう。前言をふくめていうと、加瀬夫妻の陥っている状況は、夫の失踪と再発見、精神の変調、夫による「人間」調査などだった。いっぽう書き落
【黒沢清監督『散歩する侵略者』】 「他の動物にたいし、人間は二足直立歩行する独自性をもつ(それで頭脳と感情が発達した)」――このたんじゅんな事実を映画のなかにどう中心化させるかが、『散歩する侵略者』を撮るにあたっての黒沢清監督の着眼だった
(承前) そういえば日本から一時帰国した「東京の恋人」(彼女は阿貞演じるツァイ・チン〔台湾の有名歌手だ〕とちがい美形といえる)と阿隆が夜、再会をする抒情的なシーンがあるが、その「東京の恋人」もまた日本人の夫と離婚寸前という危機を抱えていた
【エドワード・ヤン監督『台北ストーリー』】 エドワード・ヤン(楊徳昌)の映画の特質、そのひとつに「複数性」がある。登場人物の数が多く、たとえば「顔」が台北の背景と相俟って、アジア的外観を一種「みえる闇」として緊張度高く繰り広げるばかりでは
杉中昌樹さん編集「ポスト戦後詩ノート第7号」阿部嘉昭特集を、昨日、親しい詩友と先達に郵送した。現物が一部しかなく、コピーで申し訳なかったけど。貞久秀紀さんの冒頭論考をはじめ男性陣がぼくの詩篇詩論を契機に鮮やかな思弁を展開している。モランデ
【あれごりー】 おちもせず巨岩ひとつがピレネーのそらをうかぶままだためにからだがやせているとひとらがそろってかたるそれはみあげられることなくふりかえったときどきにくろくそらをおおっているぜんぽうではなくいつもこうほうにあるとするのはまわ
【こぼれる】 かならずうるんでいるけしきがあるとするならそれはおくのほうでみずのあかりをうけてひとのさったあとだろうか二〇一七年なつのおわりけしきにほそさがあるのはそこをうすめでみやるためらいがかかわっていてゆらぐ線のかずでこそそこ以外
【彎曲】 わかいころにあったまじわるという感覚があわくほぐれてくるかたるにしても美酒がまじわりをつないでからだがとけかかるだけねんごろはわすれていったおのれにこそわだかまりまむかうゆめなどしらないすくないものを想定しそれごしにはるかをな
【デュカス】 蹴ぼこりをあげながらトラがヒョウへとはしりかわってゆくのをくさはらのさきとおくいつまでもみつづけていたしまもようがはがれまだらにとびちってはそのぜんたいで這うようなうつくしい流線を生じてもちまえのこがねがことさらかがやきだ
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本日(7月19日)18時半からの公開講座最終回、そこでの質問アワーのため、見逃していたデヴィッド・フィンチャー監督『ドラゴン・タトゥーの女』(2011)、それと、そのオリジナルだったスウェーデン映画『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(
【ダナイス】 みずをふるいにかけるとみず以後がこがねにかがやきしゃがんだあしもとへとゆっくりおちてゆくようでしいられた作業がやめられないかわらにしゃがむのだろうかいくたびくりかえしてもみずわかれがいろをふくんでとりもつじぶんまでもがみず
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【黄金】 にしがわのがらすにこもっているあつくてたようなゆうかげがこがねいろとはなにかについてひとみへもろくもつたえてくれるせかいは川とおなじあらわれかわからないままながれつづけみることは居場所をうしなってむしろじぶんがそれごしではなく
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《私の好きなもの》 ある食べ物が飲み物に似ていること(たとえば山芋のすりおろし)剥かなければ食べられないもの負担のない詐術のような上り坂(明治大学の脇からアテネフランセへゆく径など)ちいさな疲労疲労によりみえにくくなっている遠方デミニッシ
【くびと肩のふたり】 詩集ゲラをよみすすめてゆくとわたがしのなかへとくびがはめこまれるとかんじたいきがあまくうすくつまったそのまえに波動かなにかでそいつがはずれていたのだがみずからなした詩の時空ははずれてゆくからだの部位をうけとめたうえ
【排列】 耳の立つひとをかたわらに置きわいてくる風を聴いてもらうどのみちふたりでいることなどちいさな列になるしかなくてこのよこはばになにかをいれるさそいとしてめのまえはみちふくらんだというおぼえもあるにわかにうまれでるものはそのうまれた
【減衰のうた】 いやらしいことをかんがえるといってもおんがくのへびがみつにおぼれるなど厭だましてやおんなの髪をかばしらとみるのも御免とどのつまり生家ののきしたのわびしさやいぬのあほうめいたはらみせで濁しながらはなのしたをのばしとろりとさ
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きのうは朝日新聞用にテッド・チャンの短篇集『あなたの人生の物語』評を書いた。とうぜんドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『メッセージ』公開の余波を受け、増刷を繰り返している同書(ハヤカワ文庫)へのオマージュとなった。 それにつけても、短篇「あなたの人
【単位】 おもいがけずたかさを得ることはとおさをも得ることだというそのようなにんげんのことわりをにくみつつあるのかもしれなかった観覧車やテレビ塔をみわたせるよろこびはからだにはかかわらずじぶんの眼の位置をいぶかしむだけだむしろたけがちぢ
【学校】 ひとりいで、ふたりいでするあのおくまりにあるいえが無尽とおもえおそろしかったせんよりまどのふえた気もしていずれはいえかべすべてがまどとなってしまう破局がみえたいえのなかからでてきたのにむすめたちのひとみはなにゆえ人どおい碧空を