154 かんがえられていることをかんがえるとは気づいたひとになるためなのだ羽虫を占める翅のひろがりがこわいが気づいたひとも頁におもく挟まれてただ翅のかがようまで、熨されている
去年書いていた、ぼくにしては長篇の部類に属する詩篇群を一本にまとめた。滔々とながれる時間が、読者をいつの間にか「べつの時」へと拉し去ることができれば本望、という感じかな。『日に数分だけ』(響文社)、帯文は高橋社長のお力で畏敬する宗近真一郎
153 きよめの水をかずかずのまどへそそぎそれらを鍵盤になにごとか奏でたいそう家並から家並へとうながされるがいろわけたゆびでなやむゆうかげは透けるうすさを梳きしずめるしかない
152 まけかたのおくゆかしさはあまた詩にあり文にもあってたえずしておくれるものを自余りに編めずいる、とおい仕損じのみを想いおくこと
151 つなを両岸から熊手にはりわたしかわもへすべらせるようおおきさをはこんでゆく数十という気がした遷らすのがゆらめきやすいゾウ状でうつろなゆきさきが河口だとしてかならずや水をなかだちさせるのはもの逝かす覚悟にもかなっていた
150 もだすか、あるいは嘶くしかないそうおもえたからそのながいくびのどこに柱状の声帯があるのかをはたでさみしくはかりかねていると節理がずれてささやきがもれだしそれも馬みずからの断念だった
149 木の瘤のほうがゆっくりとおざかりわたしがとおざかったのではなかったずさんな移動をあらぬ世にみたのだつくりだなへくるみをおくそのときに
148 秋霖でもないのにみちの鴉があおくありおもいがけなさもななめにふっていたやなぎやふじ、春のしだれの直にたいし平坂の秋は萩にそってななめがすべりひとづてに禽のみあげまでよわめてゆく