【なきもののゆれ】 よみだす詩集を手もとに立てたりせずそれでもそれを柱とするため身がまえをかんがえることから息のありかたをはじめる それはうつわかもしれないきんいろのほそいふちそこへくちびるをよせるようにこころなどちぢめてゆくと 紙のな
160 ひみつめく手のひらがうちがわを作りあげゆびはとがってうごきおのれのまぼろしを裂く妓の手踊りがおこなう過去あることのなやましさきそわれた姸がおとろえやがてそこへ雪がふる
159 本土のくちなわをあがなったがいろくずだけをながめるものにした水に放てば素早く移るだろうがなまなましいスローモーションをふる雪にもとおくおぼえるため輪のくずれたそのかたちが要った
158 ながれおもる川にゆきどまってみえたものがじぶんだとおもったたたずめばそこがみぎわだからよってむかうことをふかめる梁でからだの屋根をしろくまかせる
157 とおい切妻の下がゆがんだ過去にみえた土地の名は妻切、やもめになった男は舞うむかしをふる雪のありえた接線としせまりくるきつねのかおりに打たれた
156 まつげが蘂にみえるひとみはひかりなきたまをみごもりはつゆきへみずからよせてゆくひきばがなくてそれ以上はせかいなどちいさくならないおよそ茶飯とはそれだろうとなりからとなりもきこえる
155 ひとのかおをおおう雲のかたちにはじらいと悔いがまざってみえるがそれら感情はリズムといえぬほどゆっくりした交替をくりかえしやがてしずかなひかりもとおってきれまにかおのあらわれみなを絶つ
154 かんがえられていることをかんがえるとは気づいたひとになるためなのだ羽虫を占める翅のひろがりがこわいが気づいたひとも頁におもく挟まれてただ翅のかがようまで、熨されている
去年書いていた、ぼくにしては長篇の部類に属する詩篇群を一本にまとめた。滔々とながれる時間が、読者をいつの間にか「べつの時」へと拉し去ることができれば本望、という感じかな。『日に数分だけ』(響文社)、帯文は高橋社長のお力で畏敬する宗近真一郎
153 きよめの水をかずかずのまどへそそぎそれらを鍵盤になにごとか奏でたいそう家並から家並へとうながされるがいろわけたゆびでなやむゆうかげは透けるうすさを梳きしずめるしかない
152 まけかたのおくゆかしさはあまた詩にあり文にもあってたえずしておくれるものを自余りに編めずいる、とおい仕損じのみを想いおくこと
151 つなを両岸から熊手にはりわたしかわもへすべらせるようおおきさをはこんでゆく数十という気がした遷らすのがゆらめきやすいゾウ状でうつろなゆきさきが河口だとしてかならずや水をなかだちさせるのはもの逝かす覚悟にもかなっていた
150 もだすか、あるいは嘶くしかないそうおもえたからそのながいくびのどこに柱状の声帯があるのかをはたでさみしくはかりかねていると節理がずれてささやきがもれだしそれも馬みずからの断念だった
149 木の瘤のほうがゆっくりとおざかりわたしがとおざかったのではなかったずさんな移動をあらぬ世にみたのだつくりだなへくるみをおくそのときに
148 秋霖でもないのにみちの鴉があおくありおもいがけなさもななめにふっていたやなぎやふじ、春のしだれの直にたいし平坂の秋は萩にそってななめがすべりひとづてに禽のみあげまでよわめてゆく
147 海抜のぬきんでているおちかたにけぶたいにしきがたたえられてあれら屏風はうみへあらがい佇つなみいるものに海抜をあてがい等高線もて傷わたすいとなみではくらいづけのあやまりもしるくふたりへとひびかう、底まで秋と
145 しだれ萩のゆれざまにおどろくしずかな宝蔵がさわさわして秋のうらがわへすいじゃくをいれ花のこまかさで目病みをさそう
144 全関節が脱臼してぶらぶらするものにひかりそそぐひとの、布をおぼえた文法が変なわたりをひもときひもときうつくしくかわる空洞がだいすきでそのように秋もまどにあふれているが前後の身頃がけはいのもといなんだ
143 はげしいなゐののちくらやみがきてけものらしさがからだにみちみちあふれは欠落のようにくるいなおも琴がこときれるほどしずかだった
【やっぱりメモしておこう】 外観的に酷似するふたりが相互に代替性をおびうるかという問題を、濱口竜介監督『寝ても覚めても』は、別次元へと飛躍させた。それは奔放な麦〔ばく〕と、実直な亮平の二役を演じる東出昌大にたいし、朝子がとるリアクションに
本日の北海道新聞夕刊に、地震関連報道の特別紙面構成のなか、連載中の拙コラムが無事掲載されました。札幌公開直後の三宅唱監督『きみの鳥はうたえる』、おなじく濱口竜介監督『寝ても覚めても』、11月にロードショー開始の武正晴監督『銃』を、例のごとく
【報告2】 深夜ちかくになって、テレビの地上波画面がようやく自宅の受像機に出るようになり、11時台のニュースで初めて動画状態から地震の災禍を確認した。とりわけ胆振・厚真の山腹の大規模崩落、札幌市清田区の液状化の惨状に息を呑み、自分も体験する
【ご報告】 揺れの衝撃と寝不足で朝からぼうっとしていた今日は、昼頃から重い腰をあげ、「生きるための努力」をしだした。東京にいる女房にケータイでせっつかれたためだ。ご存知のように全道停電という異様な事態で北海道の諸機能がほぼ麻痺したのだが、
141 かたほおへやわらかなひかりをうけなげかけたまどをみつめたはずだわからずおいかけたゆめの日にもうとげられていたんだろう、祝福は
野田順子『ただし、物体の大きさは無視できるものとする』(モノクローム・プロジェクト)。物理設問の条件補足のようなタイトルだが、学童期の教室や放課後や家庭を中心に、「いまはないこと」にまつわる回想詩というべきものがならんでいる。一見の素朴な
最近はいろいろ困憊していたが、さっきみつけた寸暇に詩集ふたつを読んだ。「男の詩」、という不穏なことをかんがえた。出たため息をうつくしいのではないかと自覚した。自分が女である気がしない。 さとう三千魚『貨幣について』(書肆山田)。マルクス主
140 往々にしてライジイアの怪はうかつなひとみなをおそうあいした翌朝のしとねにすみいろの麦生があらわれとおい馥郁のゆれるばかりだ