【灰汁】 たびの錦繡屋で画帖を買ったこれからはひとの顔をかく 鹿毛の筆にうすく灰汁をつけひとのほおのかがやきをひろがる蟬の翅のようにえがく あしばやに夏がゆき秋もすぎあんなにかすかな涙痕がほおのおぼろをふかめている止住者とは
【二件】 にひきのくだんがいてふたとおりの破局をかたりとおりすがりそれをいやがった 人面をおもわすながめは星のならびであってもかねごとをおこなうのだからかぎられなければならない けれどくだんがとおくであいかたみにひかりとけあうと 可能な
【枝毛】 えだげ、枝毛を日になざされてゆたけく昔がえだわかれしてゆくかれづののすがたのなかにいた おもいうかぶいっこくいっときはみなはやい岐路をかたちして その絵にはこころおどるもののにげみちがV字だったからにげみちのさきではとらえられ
【人称】 そよともしないゆうぐれの草ひとつに人称のみなもとをみた 二人称や三人称でよびかえたひとがいつかうつむきのようにあらわれまぢかにうれいてあるときは かたらずともみえることがもうことばではないものの一人称だとおもいわびたが、それに
【堰堤】 かわかみのどこかおくふかくに橋にみえる家がかかっていてひとがみずをみおろしているという はげしい増水までもとめていたわれのほかすべても川となるために さびしい築城だと秋鮭がゆらしささげるこころは堰堤に似た木の実ぐらしのはしばし