【下天】 最高に蜜をふくんだぶどうがとどき房こそがかたちのひかりとそえられたわたしらのくちるまでみとおすのだゆきむしが天へいたらぬかなしみごと
【夜明け、マグダレナ】 ひろがるさかいめのなさをおもえばそらが夜よりもながいのは自明かそらのみだらな赤裸をかんがえぬため香油のしたたりのようにまとわれる在ってない一糸だけをとおみした
【飾り画】 ひそかに飾り画がゆめみられた主客など一如とはうそぶけず身につけたおまえをぬぐひかり空き壜の底へ翅を置くいとなみも
【ゆあみ】 あさの湯につかり脚をくんでいるとゆらぎつつそこ、下弦をなしてげんかいが骨折しているとみえたまつろわぬため、まことみずからが
【秋風】 しずかな肩をならべたのはからだにおなじところのあるよろこびを確かめるためで頭部はそれで昂揚したがたがいに同異であるその頭には昏れなければ真の並置もなかったもようのちがう皿ふたつふかく泣くとはそんなことだ
【かつらむき】 かつらむきのしずかなたのしさはゆうべ、ものごとのひと肌すべてがすけてとおくみていると知ることこころにひそむこがねの梨ならむかれてまるくゆうべのめぐりのひかりまでうすくしずめるのだからひめごとへは庖丁をあてなくては
【頰】上野健一 頰を授かりました頰のみを授かりましただから寄り添います寄り添わせてください ※『インカレポエトリ 第3号・犀』から。作者は慶大生。欠損と憧憬に感動した。コロナ禍の短詩。
【駙馬】 下る無人舟に沿い河原をゆけばゆるやかな順いがうすく戴冠され車駕の苦労のあれるいしみちを秋霧おもたく駙馬も連れそう
【蝦夷竜胆】 はじらってりんだうにそむきらりれりろりら、すずふるひとをみぎ手のむらさきとおもうのもしぐさの受動にラ行が流浪するから
【珠】 あわく日陰にあじさいがゆれてのひらを索めるのだから珠によりささえられる生もあるうるわしい複屈折のこの日複語尾のように言をさそって
【坂】 坂道には上るか下るかしかないことにある夜暗然としてあゆみおぼえる頂きのさらなる上に星がまたたくとどの詩型がしめしてくれただろうみあげてもある、ひとのにおいの奈落はくだり坂だけの無辺をさきぶれする
【同一】 如実という語には如と実がありおんなのひとみをみてとまどうがととのいの語調や風韻にすぎずいなみさえくろくしずかにおくまる劫初からのおよびがたいどういつ
【異説】 風が吹いてゆるされるのだから風をえて野へと連れ立てば足りる聴えをやめ、ながれちる異説も彗さながらひく躯ふたつさえ無蓋の荷台で搬びさられるなら
●二篇 【マスク】 鹿のつらへおきかえるかわりにかおのなかばをマスクでおおうのだかくて眼のものになり受胎となりいどころに他家の軒をえらべばひとなかばのすがたも気疎くはなれふるびているからくずおれる 【ふるはる】 やがておの
【ぬかれる】 めつむって手のひらでなぞるにはしずけく刳りぬかれた凹半球がよくおくまるひみつへふれて頭をたれあわせてぬかれる、すさぶたまなど
【無心】 まなざしをながくすると中途がかすれているとわかるなにごともおんなの裸身めいてえいぞうのはるか夏道をまみに汲み、しろくみなおぼえる
【左右】 みずへふかくしずめるとおぼろをますくだものふたつにそのときの左右ならあるがみなそこをわたる秋風でまどいやがてともにふかくほぐれる
【こびと】 めつむって推敲するのがうれしいこまかくことなりがうかびかつきえしねまをみあきないのとおなじ短躯とされて矯めもゆれるがかぎりあるもののかぎりへのみみずからの刃は向く、こののちも
【星】 なみだをながすというのはかおがぶんれつすることだがくらい眺望になじみだすとさらに、さらにとおくのひとに顔の起源がよみがえっているあれらこそ交易される星と
【各層】 あの欅までとおもうがゆきわずらいほんとうの位置は植域だけとおそれたとなりあいも過誤さながらゆらいでひとつあるべき見神の悍ましくあまた