【瞬】 いつだって一瞬みえたものがほんとうにみえたものではないかけしきはまばたきをふくみあらわれはしょうめつに欠けるがらすのかさなるばしょでかわされる反映のめくばせがひとへなりまぼろしともなってしょうこりとよばれるいきものはいつだってし
【嚢】 嚢、ということばはおなじふくろでも紙などにはつかえずそこにひふや肉がかならずまつわってしまうふるい酒をいれる革嚢やとおいこころをいれる詩嚢がなかみのあるものの風韻をたたえだすのはふしぎでからだが鳴る破れ袋としても嚢ならばかすかな
【点】 にじんでゆく点をみるときひそかにおそれるのはじぶんがなみだしているのではないかということだにじむ遠点を眼路にこしらえる不敵さもあっていいだろうそれが都合よくとければとおさまでもが我有されるそのようにして反響から身をうごかした日が
【叉】 ねじゅ、と雪をかたりかえると地の根がくだけ連珠をよびめのまえにたつ碁盤がうかぶ酪のにおいもただようからゆくひとのコートだってただおもたいだけではなくすいーつめくきえかたをするとりわけわかいおんなたちにはいもしないいもうとをおもい
【袋】あともどりするとゆくみちにふくろができるゆきみちるそらよりみおろせばおそらくそんなこたえだろうみずばながとまらずにあたまがまるでさえないわたしをわたしというふくろへだいじにいれてふらふらゆきにはこばれているそのなかがぼやのようですこ
【栓】 あき壜というよりくうき壜のちらばるまちでゆきなかへくうきをゆるりとひろげるため栓をぬくしごとについたくうき壜は縦のなみだに似て郊外をつづいているのでしばしばはおんなをあいてにする錯覚へおちたしんしんとゆきのふるひるにのみくうき壜
【煙】 わたしはだれの当日なのかともあれ当日になり会いにゆくとうすく木々はけむりだってわたしの現在がとわれてしまういちばんこたえたのはふくすうですかという問いでいわれてみればわたしの当日もかぎさかれてゆく素足のようけしてかぞえられないの
【銀】 真珠の粉をかけてぎんしゃりをたべたなぎさにいるおもいでひとつの卓へ臨んだおんじきが粉砕ににてしまうのはなんの波音だろうゆっくりとじるまぶたではなくてとじたままの貝としてときのゆきもどりに濯われたいこともあるなみだ目を椀へ伏せふる
【武正晴監督『百円の恋』】 松田優作賞を受けた足立紳の脚本を、『イン・ザ・ヒーロー』の武正晴が演出した『百円の恋』が大傑作だ。「空気が良い」という、映画特有の褒めかたがあるが、「空」よりも「気」がまさってそれで「空気が良い」と誰しもがこの
【竝】 ひとがならぶのではなくならぶものみながいつもひとになるといいかえてみるのならうすあおいくうきもひとがたにくりぬかれわたしへ添ってくるから橋上の風すらふしぎだこのときは似ていることで総身がしずくをこぼすおもえば似ていることとはその
【杖】 くりかえさないひけつはまるくあゆみながらたいくつのたすけをかりおもう中心をずらしてゆくからだのよわさかもしれない井戸が周にちらばる土地でひかるものは石のなかにあるダウジングのもたらす震動音をひとの詩のはじまりにいつも聴きみずから
【禽】 ひとが水禽になっているときかなしい逮捕をおこなうすなわち浴室突入だなんの不名誉を洗っていたのかいちまいのはだかがめくれてポーズが隙をかさねあわをこぼしている間をもんどうむように捕捉するまぶたとしてやすらいでいたからだの瞑目を瞠ら
【車】 ひとつの意識がたやすくべつの意識へつながれるときばけもののくちがべつのばけものの尾をあおく噛んでいるのではないかだんぜつがむすばれるさまは暴風雪でおれかかった樹がそれでもかたちにまとまっていたりふきだまりが雪面をもりあげる眼路の
【管】 たったひとりだけとおいせかいからのひかりをうけている者がきれいだとよばれるはだがもはや物ではなくそれではない反映となって雪へのたちかたすらうすい雪をふらすのがきれいな音というものだその者の原寸ではなくまわりがむしろくきやかすくな