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80 伝わるだけの声としてあなたは響いた五体の分離をおびそれはくもるがすみわたった窓ぎわでコロナとなり行住坐臥のたびごとおどろかせながらとどくことの内がわをかたちさせた
79 おなじこともことなることもてざわりのあるゆうれいをからだへまねけばともにあるいのり病にて俯いたのちはすがたかたちへおのれを吊るおなじことなりをやさしむべく
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75 みぎてもておのがひだりめをふさげないうですら身に交叉できぬけいれつのひとは左右の半身のつなぎをひからせるのだがおわりのほうから婚姻色がくらくおよぶとはだへのほのおのペーストこそがヨブで写ることで身もけいれつもためされている
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【高橋洋脚本・監督『霊的ボルシェヴィキ』】 作品は「恐怖」を目指しているはずなのに、「何かにふれてしまった」体験を、人物たちがパイプ椅子を円陣にして百物語形式で語りあうその画面は、当初、建物内にふりそそぐ燦燦とした陽光により、怪訝となるほ
【消化器】 敬愛する伊藤悠子さんから、第一詩集『道を 小道を』(ふらんす堂、1997)がとどいた。ぼくが詩をおおやけに書きだしたのは1997年ごろだから、まだ当時新人だった伊藤さんとのやりとりはなく、伊藤さんの第一詩集も未入手で、ご送付がたいへん
73 蹄鉄をうちつけるとき厩のおとこがまけたように跪くのがうつくしい肢からさかのぼる土星の積荷なのでうまのそうみはいよいよあいだとなり星のほのおとして野をめぐるだろうおもいあまりひづめにくちづけるのもくち、サチュルヌの環の移しなのか
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71 なりあまりながらどの愛だかしらずにとどこおってゆくことをゆるしたが樹上と樹下がともどもしろくあるころ身のすくない影を汲む前屈みによりわきあがる風の発端を傍目へおくった
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68 さばくまえにうろこを殺ぎおとせばはだかとなった魚がより泣いてみえてありえないしろたえになるまでをねがうこころゆれがほろびへむかういっときこれをしも、つくろいのみわざかと
67 さかいめにほんとうの国があるとなみうちぎわをみておもうのだよせかえしては、すきまをしぼりあいだにいきる水霊のひとらをほそくすきとおるようみがきあげたまと柱のみだれてくつがえるしおどきのけしきがうごいている
【是枝裕和原案・脚本・監督・編集『万引き家族』】 現在、カンヌ国際映画祭のコンペ部門に正式出品されている、是枝裕和による原案・脚本・監督・編集の映画を昨夜観た。『万引き家族』。「万引き」と「家族」に二分できるタイトルだが、それぞれをおもい
66 しごく天国的、という形容をものわびしさにもちいるひとは雲海にも似て一定の丈のある花野のじゅうたんをゆきかってかくれて脚もないといいたげだがえびあしをうきあがらせながら移るだけだし移らないだけだ
65 えるむのしたで顎をかくしするどい一音つづきによってはもにかをならすおとこは幾本かのへびの舌でたくみにあなをふさいでいるはずでミューズにミュートで応える列のすくなさの経木ながし
64 つかれを負うべく背をあざやかにそめ朱をふくむ風に髪を洗われきた身がつづいて自転車をとめかけた一位のもと西へふりかえり笏になってゆくのをなにか悼むようにみおろしえたのにはみいることの弥縫もかかわっていた
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