141 かたほおへやわらかなひかりをうけなげかけたまどをみつめたはずだわからずおいかけたゆめの日にもうとげられていたんだろう、祝福は
野田順子『ただし、物体の大きさは無視できるものとする』(モノクローム・プロジェクト)。物理設問の条件補足のようなタイトルだが、学童期の教室や放課後や家庭を中心に、「いまはないこと」にまつわる回想詩というべきものがならんでいる。一見の素朴な
最近はいろいろ困憊していたが、さっきみつけた寸暇に詩集ふたつを読んだ。「男の詩」、という不穏なことをかんがえた。出たため息をうつくしいのではないかと自覚した。自分が女である気がしない。 さとう三千魚『貨幣について』(書肆山田)。マルクス主
140 往々にしてライジイアの怪はうかつなひとみなをおそうあいした翌朝のしとねにすみいろの麦生があらわれとおい馥郁のゆれるばかりだ
139 浜の砂が模様を崩してこすれるこえと浪のなかを砂のさかまくおとが唱和してこまかさはながれ痴れるのみの目睫に亜漏刻の亜限界をひとときだけひろげた
138 そうだどこでもない場所などいつでもたがいを遠見すればあいだにできるなかごろにはたとえば裸木をおきながくすくないはしごもたてかけようかないろのくやみがのぼれるように
137 いずれの日に冥府へ移されても簞笥は簞笥のままであるのかつかれきったうすぎぬをまといおのれを透かしてはいないか
136 疾くちりはてたという謂がなじまずゆっくり去ったとおぼえかえるとちかづいてくるような去りわざすら聯想がむかうほうの林からあって百もひとしれず十以下になったのか
135 ひそかにひとを希望にするひとは布に織られて布をも希望にするやわらかくきぬずれするしたぎはただ音のよさからのみ履かれ繊維のほうが再帰よりすぐれるほぐれだすそのみずからによって
134 その顔のそのかけがえのなさが恩寵と同時にぜつぼうなのだいっときは天漢のろうぜきと似てかざされた手でかくされてゆく
133 あなたの左があなたの右とゆくことであるきがしずかにきらきらしているどうしてことの左右が気がかりなのかまふたつはけしてそれぞれではなくまなかの半分性のみあらわにするためだそれが宥められ、事後のゆめがうつる
【雑感2018.08.12】 ・蛸がその足の何本までを食べても蛸といわれるかが認識の脅威だろう。じっさい俳句は「自分の足を食べていて」、その状態に詩は憧れなければならない。結果、俳句が現今の詩に先んじて獲得したものは――詩がまるはだかの骨格で組織さ
132 なみだ塩をかすみ打ち野菜を泣かすすくなくしぼりややうつむいてめぐるもののはてを口へみたすときえるあらかたがきえにあらわれる
131 ながれうごけば生きているとみえるとうめいな水は底知れぬ仮象だがあたえるためにはふところをやぶりおのれとして汲むのだ、星の井戸では
130 からだに寝台をひそめているけだものはかたい屋根のうえでもみちてねむれるみずからのわずかにみずからをのせしずかな葦舟が銀漢にとどまりつづける
129 いつのまにか弟子となったユダはいつのまにかのあいまいを生きいわしぐもにさえ悪衣をみあげた起こされてみたらあれ野がかがみでおのれがうまく映らなかっただけくぎりないことのにぶいひろがりは説法のゆめやくるしさと背理した
128 みわたすことをしたからなのだろうか肩にみだれる夜風はとてもながい丈をもつ身も末ひろになっているのだそこまではわたしというへだてすらいつかゆくひとのむこうとなってここからの巾がひとつ無魂をつかむ
127 わすれてくれるからへびやむかでをこのむ這いゆくながさがすくなさにもみえて苦よもぎの世ではおぼえている途中だけがほそくきえあうたがいのすがたとなる
125 レヴィナス、つたうべきかんがえをおびふかいみどりの裏でかくれかまえるとおなじうする円を似た辞がおくまりすきまがおなじをことならせないようくすりらしく配剤されたくらい故意だとみずから知って呑みこみをおのれした