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2018年08月29日11:16

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野田順子・ただし、物体の大きさは無視できるものとする

 
野田順子『ただし、物体の大きさは無視できるものとする』(モノクローム・プロジェクト)。物理設問の条件補足のようなタイトルだが、学童期の教室や放課後や家庭を中心に、「いまはないこと」にまつわる回想詩というべきものがならんでいる。一見の素朴な枠組に、残酷や奇想がミニマルに清潔に盛られ、それが物語性をしずかに脈動させ、最後の一行まで注視をしいるのが、この詩作者の特徴だ。よって語り口は視線のいそがない並歩をみちびく。言語派ではないが、たくみな措辞が数多くある。物語性はあるが譚詩的ではなく、それゆえ主体や回想をまるごと消去させてしまう終局の荒業が利く。詩作の根底にたえず逆説が横たわっている。さみしさ。それにしても学童期の回想はなぜ読みをやわらかく馴化させるのか。そのやわらかさがやさしい逆落としまで付帯させるのか。さくらももこ訃報の翌日、家のポストにこの詩集がはいっていたのもなにかの因縁だろう。月食を主題にした詩篇「宿題」で、月のように後ろ姿が常に等距離を保ってうごく、正体の定かではない学童ドッペルゲンガーが出現してくる。むろん恐怖の対象だが、それがわずかに郷愁をも放つのがすばらしい。主体とかならず出会わないこと――ブニュエルがコクトーとの待ち合わせを流産させてしまった体験回想にあったし、黒沢清『ニンゲン合格』で階段を終点にした縦構図の左右を、タイミングをたがえて西島秀俊と役所広司が出入りし「つづける」寓意劇の場面にもあった。公園遊具という無生物が主体となった詩篇もある。カフカ「橋」などが参照されているかもしれない。
 
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