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2019年06月17日11:58

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リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』(河出文庫)

(1)   読み解くのに難解であるかもしれないこの作品を読みすすめるうえにおいて、近現代ヨーロッパ・米国史を理解するためのコンセプトが補助線の役目を荷なうのではないかと思う。
a. 米国の知的世界の特徴は、ロマン主義の伝統の欠如である。非合理的な要素が人間を動かすことを米国人は皮膚感覚として理解できないのだ。(佐藤優)
b. 米国というのは「起源における完成」に基づいているので、この「実の起源」によるかぎり、「虚の起源」を欲望の対象とする「創造的伝統」のダイナミズムは働かない。(内田樹)
見方によっては禅問答のように響いてしまうかもしれないが、この作品の陰影がある程度、くっきり浮き出てくるのではないかと思う。

(2) 冒頭からディエゴ・リベラのデトロイトの壁画の話が出てくる。カルロス・フエンテスの『ラウラ・ディアスとの歳月』(邦訳なし)にも、デトロイトへ壁画を描きにフリーダと出かけるディエゴの話が出てくる。当然、わたしのなかでこのふたつの物語はリンクされる。つまり、より広い世界を意識させるということ。つまりパワーズの作品はもっぱらヨーロッパ・米国世界、フエンテスのほうは、亡命スペイン人も含むイスパニック世界。

(3) このパワーズの作品の起源は、サンダーズの三人の農夫の写真にあると思われる。写真という複製芸術から生まれえるこの豊かな喚起性、この作品はある意味でこれに尽きる。この喚起性を媒介にして、世界の深みと拡がりという、容易には可視化できない世界が露わにされていく。もちろんそれは作者の、世界への問いそのものから発していくのだが。

(4) この作品はキーワードにみちているので、その一つひとつにこだわって、順次、読み解いていくことも可能であると思われる。

(5) かならずしも大部の作品ではない。しかしながらとてつもない巨きさが入り込んでいる。しかもストーリーというものが不在なわけでもない。あるいは世界の巨きさとストーリーとが陣取り合戦に興じているとも読める。世界なるものはこのようにも捉えうるものであるということは、わたしにとって、いわば驚愕にちかい。

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