前著『まともな人』とともに雑誌「中央公論」の時評からなるものであるが、にもかかわらず中公文庫にまで入ってしまうとは驚き。
社会やら政治を論じるときには、なによりも正確で広範な「情報」が必要、そうでなければ一言居士でおわってしまう危険がある。
思い込みをなにより避けなくてはならない。
だからこそいわゆるジャーナリストの語ることは秀でているのだ。
当然、養老 孟司にも得意な分野もあれば苦手なフィールドもありえる。
視点のユニークさ、つまり人体を科学の対象としてみることから培われた分析力。
それに虫からなりたつ、虫による世界や歴史の把握、といったところだろうか。
そこから意外な姿が現れてくるとき、わたしたちは感嘆してしまう。
だから語られることのすべてに頷いていればいいというわけではない。
(それに売れっ子になってからは、文への傾倒が減ったような気がする)
たとえば、四国について考えるとき、たいていは太平洋側と瀬戸内海側といった分け方をするが、昆虫の分布、そしてその背後にあるだろう四国の地質的世界を考えると、四国は東西で分けたほうがよろしいなどというオリジナルな考え方が出てきて、わたしたちをはっとさせずにはおかない。
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