面白かった。さすが、と感心した。
この作家は、本当にストーリーテリングに自信を持っているのだろう。
というのも、一冊で3つの物語が楽しめる仕組みになっているから。
主人公・稔は、東京の世田谷とか渋谷区辺りの地主の子孫で長男。
今は一人暮らしをしている50歳なのだが、これが浮世離れした高等遊民で、
読む人によっては、イヤな奴とかいけすかない男とか思われそうなモテ男。
関係を持った女性たちから、誠実でないと言われるが納得できていない。
稔の唯一の家族である姉の雀は、名の通り個性的で、今はドイツに住んで写真家をしている。
さらに、稔には一人娘がいるものの、もともと結婚しなかったらしいその娘の母は、既に別な男と結婚し、
平凡な幸せをめざして三人で暮らしている。
と、こんな人物たちに加え、稔の親友で、この小説ではただ一人、ほぼ常に背広姿で登場する税理士・大竹がいて、
稔の財産を管理していながら、いかに稔姉弟が資産家なのかを、読者に伝えてくれる。
この大竹は、一見、まともなお堅い仕事をしている常識人に見えるのだが
意外に曲者で、そこもおもしろい。
ここまでは、まだフツーに江國ワールドだと思う。が、この小説の特色は、
本に目がない稔が読んでいる外国の小説が、劇中劇のように随所随所に綴られて、
読者は、そちらの小説も楽しむことが出来るということ。
そして言うまでもなく、架空の外国小説もそれなりに面白いのだ。
何しろ読書家の稔をとらえて離さないのだから。
ということで、一冊で3つの小説を、同時進行に読むことができるという、
とてもユニークな長編だった。恐れ入りました。
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