今回の芥川賞受賞作、読み応えあった。
比較的平易な文章で、ずんずん読めるのだが、
ここというところでは、鋭く深く掘り下げた感があって、
その辺りが受賞の要因なのかも、と感じた。
情景描写よりも、人の心の奥底を描くのがうまい、というか。
主人公サクマは自転車メッセンジャーをしている若い男。
新宿のはずれにあるオフィスには、ベテランから若者まで
年を取るまでは続けられない、体を使うこの職から、
何とか転職しようとしている男たちが集まっていた。
少しネタばれかもしれないが、
サクマには怒りが溜まると抑え切れなくなり、ブチ切れるという致命的な短所があり、
本人は気にしてはいるものの、抑制できずに、そのために
自衛官から始めて、いくつもの職を転々としてきた。
それでも自転車に乗ることが楽しいこともあり、
貧しくとも比較的安定した生活を営んで来ていたのだが…
これを読んで思い浮かべたのは、去年見た映画「すばらしき世界」だった。
役所広司が演じた主人公も、このサクマみたいに、
一度キレると歯止めが利かないタイプで、恐ろしい事をしでかす。
フィクションとはいえ、この2本の作品の評価が高いことからも
現代の日本には、サクマのような、普段はまともなのに
一旦キレると恐ろしく乱暴を働く輩が増えてきているのだろうか。
治療を要するような人なのに、そのまま世間で健常人として生活していると、
なんだか薄ら怖いな、と感じてしまった。
そういえば、映画「ディア•エヴァン•ハンセン」も、
精神科のクリニックで処方薬をもらっている男子の物語だったな、と思い出す。
ま、彼の場合は穏やかな子だったけど。
また、西加奈子の「夜が明ける」では、性格にはあまり問題はないが、
極めてブラックな仕事をしている、若い男が主人公だった。
全てフィクションてはあるけれど、なんか重ねて鑑賞すると、
今の世間には、こんな波が来ているのか、と構えるような気持ちになる。
「ブラックボックス」の作家はまだ新人だし、自らの経験を多々反映させた著作だろうと思われるが、
西作品は、細かく取材して得た知識によるベテラン作家の著作で、
2作とも、生きにくい世の若い男たちを描いているからこそ、
その対比が面白く感じられた。
今挙げた作品の作者の、次の作品は絶対チェックする、間違いなく。
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