直木賞作家の書き下ろし長編で、装丁も本人。
国際的な経歴を持つ小説家の力作で、とてもおもしろかった。
「この世界にアイは存在しません。」
と始まる物語は、主人公のアイの物語なのだが、
このアイは、日本人の母とアメリカ人の父に養子として育てられた
シリア生まれなのだが、国籍はアメリカにある。
ということで、アイデンティティーに悩む少女時代を過ごすのかというと
そうではないように展開する。
つまり自分が何人であるか、ということにはこだわらず、
パーティーの花でもあるような魅力的で裕福な両親の一人っ子として、
何不自由なく育つ、というところに常に苦しみながら、生きていくのだ。
ニューヨークで小学校まで過ごした後、母の母国である日本に
父親の転勤で移り住んで、多感な若い時を東京で暮らす。
このヒロインに感情移入していくと、もう、そのまま読者は
アイちゃん応援団員になり、彼女の学生生活に馴染んでいくことになる。
高校では、彼女は孤高の少女ミナと親しくなり、
夏休みを毎年軽井沢で一緒に過ごしたりするような、親友となる・・・
何一つ不自由のない、恵まれた少女アイ。
外見が、まるで外国人であることを除いては、典型的な金持ちの一人娘の話、になってしまうのだが、
彼女は他人に言えない「行動」を続けていて、そこが深刻で、かつ好ましい。
ところどころで、主人公たちが相手の目をまっすぐに見つめて
例えば、相手の瞳に映る自分の姿を認めたりするのだけれど
そういう描写から、作者のこの小説にかける熱意とか真剣さとかを感じ取れるようで
実に好感が持てる。
アイは1988年生まれで、2001年のNY同時多発テロの時には東京にいて
それからも世界では数々のテロや事故や自然災害がおこっていることを
著者は淡々とつづって提示してくるのだが、
世界のどこかで起こっている災難などで不幸に陥った人々に対するアイの気持ちが
痛々しい。
アイは感じてしまうタイプなのだ。
不幸に見舞われた人々に「この境遇を一度でも体験してみろ」と言われているように。
そんなヒロインを応援して、幸せになってほしいと、読み手に心から願わせるような
そんな、まじめな大作だと思う。
ログインしてコメントを確認・投稿する