裁判員制度により補充裁判員に選ばれてしまった若い母親を主人公とする問題作。
裁判の被告人が一人娘の零歳児を殺してしまったということから、
児童虐待とか新米ママの孤独感と、ヒロイン里沙子が自らを重ねて苦悩する物語
と聞いていたけれど、
なんのことはない、嫁姑問題と実家べったりな夫との夫婦問題を語る話だ。
さらに言えば、今年だったか、最近離婚した年の差婚カップル(ロックミュージシャンと国際俳優の娘)で話題になった、
夫からのモラハラ的ないじめ(ただし、この言葉は一切使われていない)の話でもある。
深い話だと思ったし、普通の小説にしては、ハラハラするシーンもあって、力作だと感じた。
週刊誌に連載されたそうだけれど、書きおろしのような印象を持って読み終わったが、
大幅に加筆修正したというので、連載版を読んだ人でも、新たな気持ちで読めそうな感じだ。
さすが、角田さん、すごい。
里沙子はほぼ3歳となる一人娘の母だが、実家は全く頼りにせず、夫の陽一郎と三人暮らし。
娘は今イヤイヤ期にあり、思い通りにならないことにいらだち、つい手を挙げたりしている。
この、娘の扱い方の不器用さに、母親業の先輩(或いは卒業生)の私としては、呆れるほどだった。
もう少し上手に子育てできそうなものなのに、と読み進むと、
よそ目には「子育てに協力的なステキなパパ」と映る陽一郎の問題点が浮き彫りになってくる。
里沙子がだんだん、夫からの言葉に対して解釈を深めていくのだが、
言葉によるハラスメントが、これほどの打撃を与えるのだということが、とても巧く描かれている。
それは裁判によって明らかになっていく、被告人の起こした事件或いは事故の解明ともに
結末への大きな決めてとなる。
この小説は、若い男性には全くわからないかもしれないし、
結婚していても子供のいない夫にも理解不能かもしれない。
また、女性にしても、子育ての経験のない人には「???」な場面の連続かもしれない。
が、逆に嫁や姑として生きてきている人には、あまりにもリアルすぎて、
里沙子が終盤になって問題点を明らかにしていくにつれて、その問題点の深刻さが怖いくらいの様相を帯びてくる。
普通、ヒロインが問題と立ち向かおうとすると、好意的に応援モードに入るのが読者だろうに、
なんだかこの小説では、「そこ踏み込むの?大丈夫か?!」みたいな感じ方をしてしまった。
私はとても面白いと思ったし、色々考えさせられたし、夜遅くなっても途中でやめられないほどだった。
わが身に当てはめて、改めて義母の側面を理解できてもしまったし、
橋田寿賀子ばりの、誰もが認める鬼の姑以外に、
嫁に入る女性に降りかかる問題というのは、重くて辛いものもあるのだな、
と改めて確認できたような気がする。
また違った見方をして、モラハラの側面から見ていけば、
世間には、夫がこんな形で妻を愛するというタイプがありそうで、
それは悲劇の始まりになりうる、とも読み取れた。
で、その結果、何よりも、大人になってからも娘と母が仲が良いのが一番、とわたしは思った。
もちろん仲が良すぎて、排他的になるのもまったく良くないけれど、
その関係さえ良ければ、少子化は防げるのかもしれない
などと考えるにいたった。
反対意見がたくさん来そうだけれど、ね。
ただ、もしこの小説を読んで、子どもを産むことに尻込みするような風潮が出るとしたら、まずいなぁとも思う。
このヒロインは、どこにでも居そうで、実は少数派だ、と思われる。
普通のお母さんは、娘の初産には全面協力をいとわないし、
そうするのが一般的な母娘関係というものではないだろうか。
考え方が単純すぎるかしら?
もちろん考え方は人それぞれだし、仲が良ければよいほど、亡くしてしまった時に
立ち直るのが大変になってしまうけれど。
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