地方新聞に連載された小説、とても面白かった。
久しぶりに 純文学を堪能した。今年の私のベスト5内に入りそう。
近未来の、穏やかなディストピア小説とも言えるかもしれないけど。
主人公の朔也は母子家庭で育ったのだが、母を事故で亡くして半年、
大枚をはたいて亡き母のヴァーチャルフィギュアを作ってもらう。
母は"自由死"を望んでいたのだが、朔也は受け入れられずにいたのだ。
作り物の<母>を通して、亡き母の意図を探ろうとして…
舞台は2040年の日本だが、貧困層と富裕層の格差がひどく、
福祉も社会保障もインフラも行き届かなくなっていて、
朔也ら貧困層は、働けなくなると生きていけないような状態だ。
そして世間には、自由死という、安楽死より過激な死に方が導入されている。
このあたり、今回の芥川賞の「ブラックボックス」と似たような展開かと思っていると、
もっとずっと大胆な方向へ進むし、
母恋から始まる物語なのが、登場してくる人物によって
別な彩りと風合いを帯びてくる。
そして、この作家の持つ描写力の凄さ。
矢継ぎ早でなく、程よく散りばめられる美しい表現の数々に、
瑠璃色の蛍光ペンで線を引きたくなるような衝動にかられまくり
ーーって、勿論ヴァーチャルで。
貧者やブラックワーカーもの、というキーワードを付与できるだろうけれど、
掃き溜めの中には、華麗な鶴が何羽も隠れていて
ページをめくると、優雅に羽ばたいて飛んで出て来るような、
わかり易くて面白い珠玉の長編。
問題作でもあるし、切ないお話でもあるし、とにかく楽しめた。
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