ストーリー的にも構成的にも解き明かしがたい作品について触れることは容易ではない。
しかし補助線を描くような試みで、拙いながらも、英文、スペイン語文にて要約してみて、ありがたいことにようやく日本文でもなにか綴れるような気持ちになった。
主人公の女性絵描きはヒロシマの地獄を生き抜きはしたものの、そのトラウマからは脱すスことはおろか、終始、囚われ続けている。
そんな負の刻印を刻まれたひとは、復興・成長期のニホンにおいてとりわけ蟻地獄のような様相を帯びる。
そこで生まれた三角関係、むしろよりたしかな言い方をするならいびつな四角関係とでも呼ばれるものか。
かなめは、このヒロシマの地獄をいかに普遍化されたものとしてこの四人が分け持つかであり、じつはだれでもトラウマに囚われているのである、それをどこまで意識化しているかはともかく。
けっきょく、トラウマなるものはきれい事では片付かない。
主人公の絵描きは、アルノルト・ベックリンをメタファーとして用いる。
この作品は時間が執拗に前後することも含め、語りの複数の声など、当時のかなりの前衛性も意識されている。
悲劇であるにもかかわらず、というか、だからこそか、重層性というもので、読み手は考え込んでしまう。
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