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2015年12月30日09:38

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連載開始

 
「現代詩手帖」のこの1月号より、一年間にわたる詩書月評の連載がはじまった。みなさんお手もとのこの号では、「音韻」に着目して、以下の詩集を論じた。稲川方人『形式は反動の階級に属している』、カニエ・ナハ『用意された食卓』、石田瑞穂『耳の笹舟』、平田俊子『戯れ言の自由』、日和聡子『砂文』。
 
昨夜、連載第二回めを書き終わり、けさ編集部へメールした。それで徐々に調子がつかめてきたかなという感もある。
 
もともと月単位でのたんなる詩集、詩論集の羅列紹介にするつもりがなく、手もとにあつまった詩集から共通して適用できる詩論をたちあげたい希望なのだが(編集部もその要請をした)、むろん相手市場だから、その方針が決壊することもあるだろう。いまのところ10月刊行ラッシュの詩集群が大量にのこっているので、主題に選択の自由がきく。3月号まではなんとかやれそうだ。
 
詩集、詩論集は毎月20日ごろ段ボール函にはいって送付されてくる。多かった最初は、なんと50冊、収蔵されていた。〆切は翌月のはじめ。たんじゅんにいうと、10日あまりで、学校での仕事のかたわら、それらを読了し執筆する仕儀となる。むろん無理難題だ。
 
そのためには編集部経由ではなく、ぼく個人宛てに送られてくる詩集をさぼらず読んでおく前準備が要る。それで主題いくつかの当たりをあらかじめつけておき、材料不足を舞い込んだ詩集などであてがうのだ。「万難を排して読む」――このことの価値がわからないものは、およそ「作品」など論じることができないだろう。
 
ぼく個人へも月平均で10〜20冊送られてくるから、うっかりすると毎月毎月、詩の関係しか読まないことになってしまう。それでは莫迦になる。だから原稿を仕上げたあとは自分のために、詩関係以外に率先してむかう。そうでないと均衡がとれない。おかげで空く時間のすべてが読書中心となり、映画鑑賞がおろそかになりだした。もしかしたら、このサイクルがつづくと、自分が壊れるかもしれない。
 
1月号にも書いたが――ぼくは速読派だが、詩集の是非判断じたいが遅い。くりかえし読み、対象を自己身体化しないと、語るべき特質がみえてこないのだ。ところがこの連載は、たしかに読みへの要請を職業的なものへと、つくりかえてしまう。初読時に気になるポイント、感銘をうけたフレーズなどに付箋を入れてしまうのは、再読を予定しない消費の振舞だろうから、詩の愛好者としては邪道とおもうが、読みおわるごとにおとずれる忘却にたいし無策でいると、繙読も執筆も、たぶん間に合わなくなるだろう。ジレンマだ。
 
じつはストレスのたまるのは、個々の詩集の出来ではなく、この付箋を入れてしまう振舞がもとになっている気もする。消化ではなく、たんに読むこと。いつでもその初心をつなぐ必要がある。そのためにからだの調子をたもち、冴えたアタマで詩集などにむかえるよう、食事・飲酒・睡眠などの日常まで整備しなければならなくなった。やれやれだ。
 
たいへんなことは目にみえていた。それでも引き受けたのは、詩論や詩作の状況を率先して変えてゆく責任が自分にあるとおもったためだ。片方では詩の授業をやっているし、片方では詩作をおこなっているから、月単位での詩への思考は自分の現実をも下支えする。「無縁」ではいられないのだ。
 
お気づきのように、ぼく自身はひねくれたライトヴァースがこのみで、文学的な詩を遠ざけているかたむきがある。詩は詩だ――文学ではないというのが、これまで披露してきた自分の立場だし、詩の可読性を音韻と切り離すこともない。ライトヴァースのほうに親和するのは、「詩の構造化」が確実におこなわれている佳篇が比率的に多いためだ。
 
ところが詩書月評の担当は、たぶん単機能、単独趣味ではやれない。自分と似た詩風の作品を褒め、自分の田んぼにのみ水を引く独善は、詩作の独善どうように醜いものだろう。自分とちがう詩風のものに親和するのは、むろん自分の詩風をひろげるためだ。「いつもおなじ形式で詩を書くひと」はこれができず、あらゆる変化にたいし排他的になる。しかも旧いものと新しいもの、どちらかしかとりあげられないのなら、後者を選択するのがジャーナリズムだろう。連載担当者はジャーナリスティックにならざるをえない。
 
「わからない」「のれない」「むずかしい」とは書かない。自分の詩にたいしそういわれたら、どんな気分になるだろう。詩仲間でもこの点に鈍感なひとが多い。むろん対象にたいし否定しか浮かばないなら、そもそも俎上にのせない。それでもとくに知己にたいしては、発言機会をのがさない。侠者のように状況を把握している必要はいつもある。振舞の清潔と、反動化の抑制はじつは相補的なものだとおもう。その確信のためにこそ、この厄介な連載を、ぼくは引き受けたのだった。
 
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