【音点】 どのからだもそのものではない耳介ですらひびきをあつめるためそとにあずけられたとおいうつわの仮初のかたちにすぎないだろう ひもといてみればひとりびとりがみしらぬうつわにおもえるのは音点あまたにひかりがおりるから すべて対立ではな
【耳朶】 そんざいがひとつの耳にみえたのはおとにとってなきたいことでした うすいジダ、とその名をよんで小骨や蝸牛などふくざつな共鳴のなかみをつねゆめみていて けれどもそんざいがゆくえなきあなのみちびきからはじまるのをどうして楽章ともおも
【横臥】 からだにあった縦が一切きえよこになってしまったのだからわたしじしんもきえていった しずかなかたちのこもりぬひとつ平椀のように水がうすくもられ あんいつへ風がふきこんでくるとしんけいしつにみぎわがゆれるさざなみがわらいじわなのは
【手題】 おもわず主題を手題と書きそんじわたしらはあやまりをしってしまう 海へとくだってゆく坂のようにわたしらは手においてこそしづくりがかたむいているのだ よこからみればどろぼうさながらおずおずと手題をさしいれつづきとおもうふかさをはか
【階段】 階段はとつぜんあらわれるものひかりのなかに立つかたちでしかも手すりの翅をあまくとじみやびにあおくほそまって やこぶとか梯子とかではない町をまようと揮発域として生じけあげの横列だけがみあげられる したしくしたひとらのようなひとま
【白老】 いつかあのそらをおもいだしてきっとえづいてしまうのならあの空もつらく高いのではないか すべて紡錘ですよといわれるが横からまく風とはなんだろう そらではなく鳥の座とよんでみるとしらおいのやまいでしわをおびたはるか鏡天井まで鶏舎と
【愁殺】 ゆううつのあった日はそのようにいわないといけないせかいのひろがりにふれたのだと 日のうつりかわりをおもいだすゆるやかさがすべて愁殺をまねいた ひとつのばしょでの激変とまったくちがう自身のおぼえかすかな花芽をさがすみずからのまな
【創成】 ゆきかうひとらに雨傘がふえてそらの雲はささえられだしている さきごろまでうすいふちのカップでときを透く葛湯をのみすぎつましくうすくなったくちびるは 傘をかたげ天からのかんろをくらいあなへいれようとひらくこのとき傘とすがたの分裂
今日3月16日、札幌の試写でみた白石和彌の『死刑にいたる病』が大傑作だった。キャスティングを記すだけで、何かネタバレの域を踏み躙りそうなので、全部抽象的なメモ書きで行く。 ・拘置所の面会スペースのガラス張りの「向こう」に比較を絶して聡明で礼
【丘珠】 ひこう場のれんげのあたりにあの丘珠璃子はいただろう みぎひだり、あしんめとりいのかおをもつきれいなむすめからだがかすんであおを発する それでも腕や脚、それらはどこへとつながっていたのかあらゆる双数のゆめへとだろう春のけはいは数
【返照】 まうえのゆきぞらをみあげ雪がひとみへふるにまかせた くびからうえのまどをひやしてただの空ではなくときをうつしたなみだとともにまぼろしがにじんだ ゆっくりといちばへつどってくるゆうがたびとのけんぞくとなったがみあげることがやすり
【星辰】 星がふたつあればすでに星座でそれらをにぎる手こそ配列のとらえなおしで湿る それでもつよくしたたるのは双数の星がつくりだす共時なのだ やがてあいまいになった把握はこぶしで柑果をつぶしているにがさともないまぜになりてのひらのつづき
【遠境】 みなみのなつかしい雨あがりがいっせいに草の濛気のたちのぼる獰悪なにおいのあふれなのにくらべ きたの雪あがりは雲のおおうままつむゆきのくらくのこったままうつわでりんごの香をゆらすだけのこのてのひらのつづきにすぎない あがりのあと
【記憶】 いちどふりかえったあのひとをここからいちどだけみつめたそうして容赦なく一回性がつたう からだのなかにからだがあるとおもっていたが、さほどでもなく たんじゅんな一回性により眼にされたこちらのからだがからだごと瞑目できないでいる
【形影】 樹々があるく国にいるならわたしじしんあるかなくてよいすなどりもせず拾いもせず ゆく樹々のとってのわたしはちいさな点景とただなるだけで みまわしながら思いをひろげ樹のすべてがおんなである確率をうごきのもんだいからとらえる みな形
【斜性】 坂のなかとはどこをさすのか斜面すべてではないだろう おだやかなひとつのななめが次のさりげないななめへつながるそのときに、なかがあって ひとはそこにこそ足をとられのっぺらぼうの斜性となりそれまでの坂をうろぬきつつおのが直前へとき
【潮音】 すみわたったきれいなひとみがこちらのひとみもすませるまなざしはそのようにつたう ゆきの日の巨木の枝えだはひとのみかわしをかすめつくしまなざしをつたえおわった痕跡でかたちがまとめあげられている しずかさがほほえむ瞑目になればとお
【灰色】 はいいろのちいさくかわいい花がせいぜんとみちばたにならんであるけばものくろふぃるむのさなかへはいってゆくようなのだ ものくろふぃるむのながめにはきんいろとみえる急所もありまなこではそれが粉としてのこる あしくびにりぼんをまいた