mixiユーザー(id:2810648)

2024年04月17日08:59

10 view

読書紹介2389●「北辰の門」

●「北辰の門」 馳星周著 中央公論新社 24年版 1800円
 本書は、藤原不比等を描いた「比ぶ者なき」、不比等の4人の息子たちを描いた「四神の旗」につづく第3部である。主人公は、不比等の長男の子・仲麻呂(次男)である。
 仲麻呂は伯母(不比等の末の娘)である光明皇后の支持のもと、権力の座に駆け上って行く。左大臣は仲麻呂の兄・豊成が務めていたが、兄の政のやり方に不満であった。藤原の一族を率いて行くべきは、大いなる野心(藤原一族が永遠に権力の座に居続ける)を抱え、燃えたぎるような情熱を内に秘めた仲麻呂のような者であるべきだ、と自分でも思うし、光明皇后もそれゆえに支持してくれた。
 聖武天皇が退位して出家。太上天皇となるにあたって、仲麻呂は阿倍(孝謙天皇)を天皇にするため策略を尽くす。それには、兄・豊成を頂点とする太政官の反対をおしきらねばならない。考え出したのが、皇后宮職という「令外(りょうげ)の官」である。つまり、律令に明記されていない機関のこと。皇后の権威をもってそこに政治的な力と軍事的な力を集めさせる。皇后宮職の長となった仲麻呂は、太政官を名前だけの機関に貶めたのだ。
 仲麻呂がめざしていたのは、「天皇は祭祀を司り、皇帝は政を司る」というもの。天皇になった阿倍は、仲麻呂と母・光明皇后の操り人形であった。仲麻呂は皇帝の呼び名はなんでもいい、天皇をも上回る力を手に入れ、この国を唐と比肩しうる強く豊かな国に造り替えること。これが、祖父・不比等の願いだったとの自負をもって政に励むのだった。
 その仲麻呂は切れ者すぎるがゆえ、自分より劣る者の心中を忖度することができなかった。聖武天皇が死に光明皇后が死ぬと、阿倍の楔は仲麻呂だけになった。天皇の仲麻呂への不満はつのっていく。そこに道鏡が現れた。道鏡は阿倍の孤独を癒し、自分の好きにやっていいのだ、それだけの権威が阿倍にあることを知らしめてくれた。阿倍は仲麻呂に対抗するため、大宰府に左遷されていた吉備真備(遣唐使を2度務め、学問にも軍事にも精通)を呼び寄せた。
 仲麻呂が、情を無視して政を執り行ってきたこと。理と権威と恐れで臣下たちを束ねてきた、その報いをいま受けるのだ。その弱点をついて、臣下たちを離散させる謀略を真備が仕掛けた。仲麻呂がつくった「令外の官」と同じものを、太上天皇となった阿倍につくらせたのだ。
 まず、新天皇(仲麻呂の娘婿の皇族)から人事権を奪った。次に狙ったのが、天皇の持つ「鈴印」である。そのため武力で後宮を襲い、天皇の身と鈴印を確保したのである。ここに至って、仲麻呂が手に握りしめるはずだったものがこぼれ落ちた。それは、光明皇后の死がきっかけであった。阿倍に対抗した仲麻呂は反逆者となり、都落ちした。仲麻呂の配下は次々と裏切り、仲麻呂はとうとう首を獲られてしまうのでありました。

0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2024年04月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930