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2024年04月29日13:23

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読書紹介2393●「相思青花」

●「相思青花」 陳舜臣著 講談社 1987年版 各1300円
 本書は、80年代を舞台にした千葉奈美(35)と華僑の林輝南(51)の恋愛小説である。2人を結び付けた道具となるのが、「相思青花」と名付けられた染付の対となった壺と皿で、その出処の謎と、それにまつわる人々の数奇な人生が描かれる。
 青花とは、日本では染付のことである。白磁胎にコバルト顔料によって波濤文の模様を絵付したやきものである。本書ではこの相思青花の謎を、現在(80年代)から40年前(日中戦争)、さらに130年前(太平天国の乱)に遡って描いているので、少しわかりづらい。それがミステリー小説みたいな作品となっている理由である。
 主人公の奈美は、ロンドンで夫が急死したことから医師の家に訪ねる。そこに、相思青花が飾られていたのだ。相思青花は、奈美の実家・今川家にあったものと同じで、2つは対になっていたのだ。以来、奈美はこのやきものにとり憑かれてしまう。その染付についてのことを知る作業が、未亡人として生きることのはじまりである気がしたのだ。
 トルコのトプカプ・サラ博物館(宮殿)に集められた陶器(スルタンが金にあかせて集めた)の中に、相思青花に似たものがあるか探していた奈美は、そこで林輝南に出会う。やがて奈美は、林から相思青花のいわれを聞くことになる。
 相思青花をつくったのは、莫達という人物であった。莫達は、太平天国(1850〜54)の戦乱で景徳鎮(南京で政府軍が敗退する時に、破壊した)の陶芸の伝統が途絶えることをおそれ、途方もないやきものを作る計画をたてる。それは、莫達を置き去りにして革命(太平天国の乱)に走った妻・欄友の似姿をうつした陶磁器を作ることであった。
 欄友は、この国が満州族に支配されてから200年もたっている。わずかひとつまみの満州族に、長いあいだ統治されているのは、1人の力でどうなるものでないと、みんなが考えたからだ。いま反乱の組織が、南京にできている。それに参加して、この国を支配する腐敗政権をたおすのは、中国人の義務だ、と革命に飛び込んだのだ。
 もちろん、莫達の支援のもとでの行動だった。やがて、太平天国は南京に政権を樹立(1853)したことによって内輪揉めがおき内部崩壊する。その直前に欄友は莫達のもとに戻った。その時欄友は、夫の作った相思青花を見て大泣きしたのだ。
 それから90年後の日中戦争の時、国民党政府は日本軍に追われて重慶に遷都していた。相思青花は、欄友の子孫である王志光(大学教授で、政府の教育省の役人)夫婦が持っていたが、2人は戦争のため別居しなければならなくなり、対の相思青花を1つずつ持った。2人はそれぞれトラブルに巻き込まれ、それを外国の知人の努力によって救われたので、相思青花を贈ることにした。40年後、その1つがロンドンの医師のもとに。もう1つが今川家に渡っていたのだ。
 ということで、本書では日中戦争に翻弄された王夫婦の数奇な運命と、彼らが遭ったトラブル(日中戦争の歴史の事実)が描かれていく。奈美と林(莫達の遠縁の子孫)は、この相思青花のいわれの解明のなかで愛を育んでいくのでありました。

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