●「イスラムが効く!」 中田考or内藤正典著 ミシマ社 19年版 1600円
何が「イスラムが効く!」のかというと、人生の全てである。本書では、「心の病」に、「高齢社会」に、「家族」に効くことを具体的に述べている。
そしてイスラームから世界を見ると、私たちがいかに欧米の見方でしか世界を見ていないことに気づかされる。本書で吃驚したのは、トルコの例であった。なぜ世俗化が激しいトルコ(軍部と官僚がエリートで、欧米的価値観を持ち込み貧富の格差が激しくなった)でイスラーム政党が躍進し、エルドアン大統領が誕生したかを解明している。
それは、多数を占める民衆は国際政治の理屈なんてわからないが、弱者のために何かしなきゃイスラームの道に反すると信じていること。その民衆の心にこたえるのが政治だ、ということをエルドアン政権が身をもって示してきたからだ、というのだ。
例として、貧困層に住宅を与えた経過が詳しく述べられる。これが実に面白い。トルコ特有の事情(国有地ではない公有地は、私有権が確立されていない)で、都市周辺の公有地に貧困層がかってにバラックを建て住んでいた。その貧困層に、エルドアンは土地の登記簿を渡した。その登記簿を持って不動産屋に行くと、マンションの一室を交換してくれる。不動産屋は受け取った登記簿で、都市周辺に高層マンションを建てそれを金持ちに売って儲けたのだ。
イスラームの生活保護は、お金ではなく「衣食住」の提供というもの。その義務を負うのは、お金を持っている者にあった。しかし西洋システムが蔓延したトルコでは、それが行われなかった。そこにエルドアンが「住」を与えたのだから、イスラーム的にも絶対的支持を得たという訳。
これらのことは、イスラームのことがわからなければ理解できない内容だった。本書では、そのイスラームの真の内容を説き明かしてくれていたのでありました。
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