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2024年05月25日13:25

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読書紹介2399●「忘らるる物語」

●「忘らるる物語」 高殿円著 角川書店 23年版 1900円
 本書のテーマは、巧妙な支配の仕組みからの解放である。その支配の頂点に立っている帝でも、なにものかに支配されている、という仕組みがあるのだ。王がいる。国があり、王がいて、跡継ぎができ、後継が絶え、国が滅びる。そして新たな国ができ・・・。なぜこんな世界になったのか、なぜこんなことがずっと続いてきたのか。父が支配する小さな世界を、さらに上役の父が支配し、さらに村長、領主が、王が支配することにだれもなにも違和感をもたなかったのか。
 本書の主人公は、北辺の泥炭の地の王女・環璃(わり)18歳である。結婚し子を産んだ。その頃、帝都では帝の若い側近(帝心中)たちが、長らく帝国の実権を握っていた摂政家のフリキ氏から権力を奪い返した。この新体制ははじまって20年と経っていない。
 帝心中は、フツキ氏などの門閥権力に対抗するため、フツキ氏以外から皇后をたてることに固執した。「皇后星」という、いにしえの定義を尊ぶ大弓張星見トの老人たちが彼らを支持した。「皇后星」とは、外戚が力を持たぬよう、妃の一族は根絶やしにするという風習があった。「皇后星」は、大弓張星見トが選ぶのである。
 環璃がこの皇后星に選ばれた。その基準は、王族で経産婦であること。環璃は帝軍に拉致され、夫は殺され一族は根絶やしにされ、子は人質とされた。環璃は真珠の輿に乗り、この世界のーー1帯8旗16星幾万という、1人の帝と8つの選ばれた高位旗主貴族、そして辺境の16の国の藩主が統べる国々ーー4つの藩主国を巡って帝都に向かうことになった。各藩主国のもとでは2か月間滞在し、藩主とまぐわって子を成せばその子が皇太子となり、そこの藩主が次の帝になれるという決まりである。
 ということで、泥炭の地から帝都へ向かった環璃は、そこで盗賊に襲われる。それを救ったのは、チユギという不思議な女だった。チユギを暴力で犯そうとした男は、一瞬でパッと灰燼(はい)になってしまった。月経の血を好むカミがこの世にいて、男を殺す力を授けてくれる、という噂が流れていた。チユギは、確たる神ーー確神(ゲゲル)ーーとともに生きている女だった。確神とは、斑の、鮮やかな、糸を張り巡らせ粉を飛ばして増えていく菌類である。この菌類(種類により性質が違う)と女が共生するのだ。共生すると、女には神のごとくの力が授与される。それが、男を殺す力であった。
 帝は確神の力を恐れていた。ヒトを滅亡させる死病そのものだと宣言し、過去になんども軍を送っていた。環璃は確神を手に入れれば、いまの人の世の大きな枠組みは壊せる。しかし同時に人は滅ぶかもしれないと。「滅んでもいい」と環璃は思った。
 各藩主国を巡らされた環璃は、単なる贄だった。股を広げ男を受け入れなければならない贄だ。本書では、これら藩主国の実情が描かれていく。そこには、さらに大きな支配の仕組みが張り巡らされており、藩主ですらその仕組みのなかで踊らされ、考える力を奪われていることが描写される。大昔に作られた、だれが作ったかわからない仕組み。支配者である王からも想像力を奪う仕組み。しかし、もはやそれは人のかたちをしていない。
 ということで、帝都に近づくに従って確神の真の姿が明らかにされていく。そこには、ヒトの世の前に存在し(1000年前)忘れられた、確神と獣たちの世界があったのでありました。
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