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2018年06月28日01:33

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倉石信乃・使い

 
送られてきた倉石信乃の第一詩集『使い』(思潮社、黒い光沢紙に指紋のついたようなカバーが、タイトルとあいまってとてもホラーだ)をさっそく読む。親炙してきた彼の写真評論からすると、とてもヘンな文体。ひさしぶりに文体の奇異な詩集を堪能したという読後感だ。平易な隻句がときに文脈の矛盾を企てて連打され、対象のいない命法が中和されて、論理的に証明できない静謐が保たれる。予想しないところにある、しかも高速の転調から、かたちにできない、うつくしい像が瞬間的に明滅する。それらが駆動力となり、疲れずに読まされてしまう。魔法にかかったみたいだ。係累のない詩の、清潔な孤独。けれどもツェランの含有率が高いのかもしれない。まずはきれいな一節を引こう。
 
綿を植え
綿を摘み
綿を紡ぎ
綿を運び
綿を売る
 
それから次の一節などは、跛足の神を多重露光した変則的な自画像とも読める。ただし恐ろしいことに典拠はロバート・フランクの16ミリ作品『ハンター』と自註されている。未見の映画だ。むろんさきの引用とあわせ、詩集テーマ「使い」を喩的に具象する箇所だ。
 
おまえはみんなの家来であり伝令であり飛脚でありしかも脚が悪い
なぜなら靴が脚にあっていないから
と言われた わたしは
痛い
痛がっているのは足が大きくなっているから
育っている
 
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