コロンブスのことを忘れ去ったとしても1492年というのはヨーロッパにとって意味深く、いくつかの忘れがたいことが発生。
そのひとつはイベリア半島からのユダヤ人の追放。セファルディとよばれるこれらのユダヤ人はおもにブルガリア方面へしぶしぶ移動。言語エスニックとしても存在感あり、こんにちにおいても十六世紀のスペイン語がそこでは生きながらえている。
カネッティたち一族はビジネスに秀でたおかげで前世紀にイギリスに移動、経済的成功をかちとる。しかし主人公らはビジネスになじめず、文化へと惹かれていく。これはブッデンブローグの話と似通う。
かくしてカネッティ少年は精神遍歴を子細に語っていくことになる。
ひとつの注目点は、おもにドイツ語圏にて精神形成を成し遂げていくが、スペイン語をはじめとして、多言語世界が際立つ。もちろんフランス語も習熟したはずだが、じつは当時のヨーロッパの知的世界には欠かすことのできないと思われるパリの存在が抜け落ちていること。
たしかに昂揚はあるものの、だからか、全体に暗いイメージで占められている。
著者がノーベル賞を与えられたとき、ほとんど無名の存在に近かったが、法政大学出版局がすでに邦訳を刊行していたため、ずいぶんと賞賛されていたことを覚えている。
それに安部公房がらみのことも。。。
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