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2017年09月30日08:06

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新詩集『橋が言う』刊行

 
版元のミッドナイト・プレスからきのう、ぼくの新刊詩集『橋が言う』がとどいた。嬉しくてつらつら眺めたり、手に持って感触をたしかめたり、いくつかのやりかたで読み返したりして、昨日はやるべき仕事が手につかなかった。やや小ぶり、微妙に正方形から外れた、繊細な判型(これは判型論として機能できるとおもう)。八行詩84篇を各一頁におさめているので、全体では百頁を切る、ぼくの詩集でもっとも薄い本となった。栞紐のついた初めてのぼくの著作でもある。本文フォントは、ぼくの年齢もあって大きめだが、岡田幸文さんが詩篇両起こしの見開き単位が目詰まりにならないよう、細心にノドからのアキを調整してくれ、じつにうつくしい版面になった。なにしろやわらかい。

出来上がった詩集を手にして涙が出そうになるのは、デザイナーの色校正の終了後、そのデザイナー土田省三さんが心不全でとつぜん逝ってしまわれたこと。八月末の朝、まだ60代の若さだった。詩集のブックデザインはミッドナイト・プレス以外はかたくなに固辞されてきたかたで、ぼくの前作『石のくずれ』のほか、久谷雉くんの詩集などで詩のファンにはお馴染みだろう。詩集内容に合わせたブックデザインで長く読者に愛着されることをかんがえながら、同時に驚くような英断をも披露し、岡田さんの信頼も篤かった。
 
ぼくの今度の詩集では、羽毛か星屑を散らしたような天河系のうつくしい地紋を用い、青系の濃淡で大きくグリッド構造が示されている。青系なのに温かみがあるのがふしぎだ。くわえて和調かとおもうと、西洋アンティーク磁石の円盤が虚空に斜めに浮かんでいて、「西洋」の残影をしのばせたりもする。ぼくの詩風への、土田さんの批評、というしかない。たぶん磁石の針は北海道の「北」をしめしているのだろう。土田さん自身も室蘭の出身で、札幌在住のぼくにシンパシーをかんじられていたらしい。
  
泣けるのは表4。ミッドナイト・プレスの小さいクレッセントマークにたいし、表1とおなじ、かすんだ太陽のような淡い磁石の円盤がしずんできえてゆく感慨がある。存在的余韻。それが自分の余命を無意識のうちにかんじた土田さん自身におもえてしまうのだ。「配置」と「斜め」がそうさせる。すぐれたマンガの構図のようだ。表1の磁石円盤の「なにかがはじまるうごき」と好対。センチメンタルかもしれないが、思いは尽きない。生前の土田さんと会える時間がもてればよかった。札幌に移ってしまったので難しかったが。ともあれ、この詩集が土田さんの遺作になった由。

この詩集、詩壇でお付き合いのあるかたには、近々届くとおもう。しずかな驚愕と、ありうべき口調と、減喩の実験性をめだたたせずに盛っている。そのなかで季節が推移する。「すくなさ」もあり、胃もたれのするものではないとおもうので、他に先んじて読んでいただけたらーーそのことで短詩の可能性をかんがえていただけたらーーうれしい。
 
たぶんのちの世になっても、この詩集でぼくは自分にうんざりすることはないとおもう。いったん150篇で仕上げたのち、ほぼ半年間寝かせ、かきあげた体感ののこっていない馴染みのうすい詩篇をバッサリ切って、84篇へと再構成したからだ。「内容、多すぎ」という苦言は、今度ばかりはあてはまらないと期待している。土田さんの達成したデザインのシンプリシティのうつくしさは、ぼくの詩篇本文の冗長性排除と、すぐれて交響している。
 
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