出だしから筋立ての動きにのせられて他の思いは紛れ込んではこなくて、それで最後まで走ってしまう。
さて、これは最上の褒め言葉だろうか。
ありていにいえば、底辺からニホンの虚実の全体像を照射する、とかいうことばが当てはまりそう。
伝統的に、ニホンのもの書きにとっては「悪」の描き方の凄みが足らないとか言われてきた。
悪が描かれなければ、善を描いてみても絵空事のように映るにちがいない。
ここでは、はたして「悪」が描かれており、随所にちりばめてある善らしきものが、読み方によっては浮き彫りにされてくる。
でも、ひとのこころの底にはなにがあるのか。
そんなことを軽々しく口に出していいものだろうか、と読み終わってすぐの時点では考えてしまう。
明日になれば、「それでも何か言わなければ」と思うようになるかもしれないが。
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