mixiユーザー(id:2810648)

2024年04月10日12:57

18 view

読書紹介2387●「桃花流水 上・下」 

●「桃花流水 上・下」 陳舜臣著 朝日新聞社 1976年版 各880円
 本書のテーマは、盧溝橋事件をきっかけに日中が全面戦争に突入するありさまを、程碧雲(21)という女性がたどる人生と重ねて描くことである。
 ヒロインの碧雲は、上海財閥の程一族の生まれ(父が財閥の次男)で、母の実家は台湾の茶貿易商。両親を相次いで亡くし、12歳で程家と取引があった神戸の根津商会、その家に引き取られ、ミドリという名で根津家の娘と姉妹のように育てられた。
 物語は1枚のメモ、そこに書かれた「碧雲よ、中国人であることを忘れるな。きみの父は愛国者であった。父の名をはずかしめてはならぬ」とともにはじまる。メモは時々、碧雲のハンドバックや机の上におかれ、「竜」という名が記してあった。そのメモに導かれるようにして、碧雲は日本から台湾、大陸にわたり、やがて抗日の地下組織の中に入っていくことになるのであった。当時の中国とは、満州事変や上海事変によって中国人の民族主義が覚醒され、高まった時代である。いわば、日本が中国人の民族主義を誕生させたともいえるのである。
 碧雲が台湾に行くきっかけは、従兄(母の兄の子)の結婚式への招待であった。台湾で碧雲は、日清戦争後に日本の植民地となった台湾の人々が、奴隷の身に貶められたことを知る。台湾から上海の父の実家に行った碧雲は、そこで父が毒殺された場所(銀行家の家で、当時留守で空き家になっていた)を訪れることに。そこで、抗日の地下組織で働く女性に会う。その女性から、父の死が偽装されたもので、父が生きていることを知らされるのだ。
 その上海滞在中に、北京では盧溝橋事件が起こる。1937年7月7日、北京の入口である盧溝橋で「日本軍が発砲を受けた」として、日本軍が中国軍を攻撃したのだ。やがてこれは、日中の全面戦争へと広がっていく。ちなみに、その後の半年で日本軍は16個師団、50万という大軍を中国に送り込んでいた。
 「亡国から国を救う」という中国人の民族主義は、いやがうえでも高まった。それは、抗日救国運動へとむかっていったのである。抗戦救国のために合作した国共両党をくらべると、抗戦への信念は共産党のほうが強く、国民党のほうはそれにおよばない。そればかりか、国民党の幹部はなまざまな理由をつけて日本軍との衝突を避けつづけていたのだ。
 動揺する人々のなかには、特に商人が多かった。彼らは戦争で財産を失ってはたまらない、との思いからであった。彼らは、日本の「中国に領土的な野心は持っていない。それどころか欧米列強の侵略を、日本が身を挺して防いでやろうとしているのだ」とする、大アジア主義(アジア諸民族は、日本を盟主として団結すべき)などの粗雑なアジア連帯論にとびついたりしていた。
 北京で抗日の地下組織に入った碧雲は、大アジア主義の亜流(懐柔策)を暴く任務を与えられる。それは、日本に9年間も留学した経験から、これらの謀略を企む人物(特に日本人)のなかに入って、その情報をとる、という任務だった。
 ということで、中国各地を転々としながら、中国の厳しい実態を目の当たりにする碧雲の信条は、強固なものになっていくのだった。父との再会、父が地下に潜った理由、その救国の想いと、自身の抗日救国の想いが重ねられていく、という物語。
 最後は、日本軍の武漢攻略の直前でこの小説は終わっている。ちなみに、陳氏と碧雲は同じ幼年期・青年期を重ねていたのでありました。


0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2024年04月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930