今回も読むのに異常に時間がかかった。よっつの長い短篇、あるいは中篇小説とでもいえばいいのだが、その一つひとつに時間の長さが組み込まれていて、あっさり読み過ごしては申し訳ない気持ちでいっぱい(単なる言い訳だが)。
(1)「グランド・マザー」母子関係、というより母系家族のことを綿密に紡ぎ出す。母子関係というと通常の心理学が描く典型的なもののひとつ。でもそんなパターンをあっさりと乗り越え、人間関係の可能性へと旅だっていく(または閉塞していく、どちらも大差はないかもしれない)
(2)「ヴィクトリアの運命」アフリカ移民が大英帝国で暮らすに際して、どんな光景を眺めることができるか。これも長い眼でその生々流転を見極める。ただひたすら、深く、広く、掘り下げていく。(読んでから時がたっているので、印象批評に堕しているのが恥ずかしい)
(3)「最後の賢者」政治を、歴史を、そして家族を描く寓話。でも鳥瞰するだけではない。ペシミスティックな語り口。作者がどこに位置しているのかが見て取れる。
(4)「愛の結晶」大戦とは歴史の表舞台。ドラマを生まざるをえない。もちろん愛憎についてもしかり。存在自体のエアポケットにも陥る。それはじゅうぶんありえる話。そのあと、ひとはそれをどう解釈し、生きていくか。振り返っていくか。それが仮に甚だしく重苦しいものだとしても、意味を引き出すことができるはず。
(どうも言葉が浮いて、歯がゆさばかりが際立つ。日々、なにかを記載していけば、そんなもどかしさは軽減されたかもしれないが)
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