身分制、階級性を旨とするイギリス社会においては、分をわきまえるということが肝要。
もちろん社会を相対的に眺めた場合、綻びが出てきている部分も露出してきているにちがいない。
いくら徳を際立たせた主従関係とはいっても、しょせんはミクロコスモスでの出来事でしかない。
しかしこれがひと昔前のことになると、リアルさを見せ付けられる。
執事というのも名誉職と見なすことが可能であり、執事の矜持なるものが仰がれていた時代があった。
そんな確固たる執事を通して戦間期のイギリスが語られるが、ここではとりわけヨーロッパを舞台とした外交の裏表が執拗に描き出される。
そんな緊張の溢れる場でこそ、執事の抱えている能力が試され、かつ発揮される、というところだろうか。
その意味で、田舎にしてイギリスの、ヨーロッパのダイナミズムが浮き彫りにされている。
それに加え、抑えに抑えた男と女の感情の遣り取りも描かれる。
ロマンスといってしまうと仰々しく響くが、それでも秘められた気持ちの昂ぶりと抑えが心憎いほど扱われる。
一瞬、この作品にはすべてが込められているのではないかと、おののいてしまうときもある。(願わくば、著者と丸谷才一とで対談して欲しかったもの)
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