七つの短篇から成り立つが、表題がしめすがごとく、「ある女の生涯」と「嵐」がメインとなる。他の小篇は、作文としか見なされていないようだが、それでも見方によっては興味深いものがあり、とりわけ藤村に個人的関心を抱くならば、無視できない存在。
「ある女の生涯」は文字通り、薄幸な女性、あるいは苦労のみ強いられてきた女性への眼差しにみちる。それも肉親であってみれば当然かもしれないが。藤村の女性への意識は屈折したものを感じさせられるが、時代の新しい空気を感じられるところにもいたわけだから、すくなくとも建前上では、藤村は開化を理解していたはず(このへんで漱石と藤村の開化への意識のちがいなんてものに突っ込まれると、ちょっと考え込んでしまうが)。
「嵐」は、家族の長としての藤村の勤めぶりを描いたもの。後の無頼派やら私小説系の作家から見れば、すごく真っ当な生き方をしているのが手に取るようにわかる。
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