レオ・ペルリッツ『アンチクリストの誕生』(ちくま文庫)を読み始める。
いまはむかし、ノーベル賞をガルシア=マルケスが受けた年、上智大学にて安部公房が記念講演を勤めた。もちろん義理か何かで話しづらそうだった。「前の年にもらってるのが、エリアス・カネッティ。でも本はぜんぜん売れてないんだとか。あるとき、ロンドンのパブで呑んでたら、隣のじいさんと話しこんで、これがじつに博識だったんです。それでこのひとがエリアス・カネッティ。」カネッティは、ブルガリア出身でユダヤ人。わたしはスペイン中世・近代史にも通じているところがある。カトリック両王によって、あの1492年にスペインを追放されたユダヤ人が東ヨーロッパへと逃れたことは知っていた。
東ヨーロッパ、とりわけブルガリア、ルーマニアには16世紀のスペイン語が残っているそうだ。かれらを、ロシアなどのアシュケナージ系のユダヤ人と分けて、セファルディ系という。さてさて、この作品の著者レオ・ペルッツは17世紀のスペインのトレドから移ってきたユダヤ人の家族だそうで、つまりセファルディ系。セファルディ系がチェコスロバキアに住んだという例は、わたしはあまり知らない。
チェコといえばカフカ、生年は1883年、こちらのレオは1882年、うむ、唸ってしまいそう。もちろんカフカはアシュケナージ系でレオとは異なっているが、綴った作品はその題材にしろ、だいぶ異なっている。のちに活動した時期にずれがあるという意味もあるようだが。では、さてこの二人、どのように異なっているのか、それもおいおい考えていかなくてはならないものだろう。
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