むかし、ひところ、かなり話題になっていた本ではないかと思うが、英語アレルギーへの対処法のひとつでしかないだろうとたかをくくっていた。
しかし読み始めてびっくり。
この作品には哲学があり、ニホン人の欧米理解に深く立ち入っている。
発音ひとつを取ってもただ舌をこねこねくにゃくにゃさせるだけでなく、口蓋の全体運動としての英語を重視。
なにしろ著者の経歴がユニーク。
ロシア領ウラジオストックにて成長、つまり幼いときから多言語世界を意識。
さらには占領軍下のニホンにて外国人向けの電話交換手、つまりすべて音で勝負の世界。
いかに子どもに英語を教え込むか、しかも子どもといっても、時と場合では有害にもなると言い切る。
とにかくまずは遊びから。
口のなかに四本の指を縦に押し込むようにしての発音。
腹式呼吸から出てくる発音こそベストという考えから、マット運動で転回させてからそこから出てくる音、およびリズムの発見。
極北としては、「英語の音は教えるが、英会話は教えない」という開き直り。
これこそがニホン人すべてが耳を傾けなければならないところだろう。
後半は英語教育論かつ文化論になり、著者のユニークさはさらに突き進む。
さて著者は天寿をまっとうして亡くなる。その遺志は託され、生き延びているようだ。
しかしながらわたしがまちがいなく名著であると信じるこの作品は絶版。
この著者の生の声を読み取る場は数少なくなっている。
まさかいまのニホンの英語教育は、ここで描かれたものをはるかに超えているというわけではないのだと思うが。
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