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2023年11月14日11:20

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読書紹介2346●「蜜蜂の罠」 

●「蜜蜂の罠」 フランク・パリッシュ著 早川書房 1979年版 640円
 ダン・マレット・シリーズの1では、主人公のダンの地元の農場経営者が企んだ犯罪を機知で暴いた。シリーズ2では、ロンドンからやって来た富豪の紳士が、力ずくで牧場(今は経営をやめて、馬術学校を経営)を買い取ろうとするのを阻止する物語。
 紳士の名はエディ。牧場の持ち主は、80に近いハドフィールド姉妹。いまは愛する馬たちのために、馬術学校を子供たちのためにやっているのだ。姉妹の父は50年前にこの土地をエディの父親から安値で買い取った。彼は、アフリカ・インドを転戦してきた退役軍人の大佐だった。上流階級の誇りを叩き込まれた姉妹は、地元民を見下すような横柄な態度、きつい物言い、頑固さで類例をみない。そのため、地元民に嫌われていた。
 しかし、ふたりの真骨頂はこの短所を長所に変えているところにあった。横柄さは、どんな場合にも決して卑屈にならないということ。頑固さは、逆境に耐え抜く不屈の意志となったということ。
 エディは、かって父の持ち物であった牧場を自分の子供たちのために買い戻そうとしていた。50年前、子供だったエディは貧困のなかで生き抜き、ロンドンで競馬のノミ屋の元締めとなった。邪魔者は密かに消した。乱暴な子分たちを従え、ノミ屋も16店舗まで広げた。
 エディの申し出を、姉妹はけんもほろろに拒絶した。それも、エディの階級を侮蔑してである。怒り狂ったエディであったが、一瞬ののちに自制心で完璧な冷静さを取り戻した。並みの男ではなかった。ダンは、自分と同じ悪の要素を持つ男であることを見抜いた。
 エディが最初にやったことは、姉妹の土地の周りの土地を高額で買い占めたこと。そのうえで、周囲を鉄線(電気を流す)で囲ったこと。道路を、木を切り倒して塞いだこと。姉妹の家に通ずる電線・電話線を切断し、水道の供給を止めた。そのうえで、町の居酒屋で姉妹の土地を買い取ったという噂を流し、姉妹は余所に移ったと郵便物の送り先まで変更したことだった。
 姉妹は閉じ込められた。兵糧攻めである。しかし契約書にサインが必要である。姉妹が根をあげるまでの我慢比べで、勝算は圧倒的にエディにあった。ロンドンからは荒くれ男が集められ、誰も姉妹の土地に入れないよう見張りが立てられた。
 困ったのはダンである。事件が起こる前、姉妹が開催した子供たちの馬事大会(ダンは、その手伝いをしていた)で、余所から来た富豪の仔馬を盗んでいたからだ。それは、その美しい仔馬を持ち主の子供が鞭を使い乱暴に扱っていたことに怒りを覚えたからだ。
 その馬を、姉妹の持ち馬(同種)と交換しようと売りつけていたからだ。そんなダンの窃盗行為を、姉妹の姉は「わたしはあの仔馬にいいことをしてやったわけさ。実際、人としての義務だと思う」と、ダンと同じ考えを示したのだ。ダンは自分の密猟やコソ泥行為に、「道徳的に正しいことをやっている」という信念をもっていたからだ。
 だから、エディのやっていることを警察に訴えることもできない。仔馬の窃盗がばれてしまう。それに警察は、エディの「父の持ち物を取り返したい」という悲願に共鳴し、信じ込まされていた。
 姉妹を守り、食べ物と飲み物を運んでやらねばならない。悪党どもの監視を潜り抜け、姉妹の家に辿り着いたダン。やがて来るエディの総攻撃に抗して、ダンは姉妹たちといっしょに密猟で発揮していた罠を次々と仕掛けることに。その結果とは・・・。という物語。

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