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2023年02月28日12:25

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読書紹介2274●「暗闇のアリア」

●「暗闇のアリア」 真保祐一著 角川書店 17年版 1600円
 本書のテーマは、日本の自殺者の数である。ピーク時で年間3万人超で、1日約82人が死んでいる。今なお2万人超の自殺者がいる。本書は、自殺に見せかけて命を絶つ殺人鬼を追いかける小説。
 ある日、政府官僚が家に電話をかけ、出た娘に「後は頼む」と自殺を仄めかす言葉を残して自殺した。家庭内別居していたジャーナリストの妻は、「この自殺は嘘だ」「殺されたのだ」と直観する。愛する娘に連絡するなら携帯にするはず、自分には掛ける理由はない。なにより、自殺する理由がなかった。
 こうして、伝手を頼って刑事に相談することに。その刑事は、最近妻に自殺され閑職に追いやられたばかりの井岡。井岡は、複雑な感情を抱えながら調査に乗り出す羽目に。やがてわかってきたことは、似たような手口での自殺者が多発していたことだ。
 この犯人は、被害者の声を加工して家族に聞かせている。手間暇かけて遺書を偽造(最新の印刷技術だった)する入念さを持つ。この技術を解明したことで、警視庁及び警察庁幹部が井岡を呼び出し、井岡にこの数年間の自殺者の洗い直しを命じる。
 やがて、関東地方から続々と同じ手口による自殺者が発見される。1つは、栃木県粟坂市出身の梶尾聡の周辺で。2つは、神奈川県に本部を持つ関東一円を縄張りにする広域暴力団の関係者から自殺者が相次いでいたのだ。
 こうして、梶尾の過去が探られていく。ところが、梶尾は2年前にアフリカで事故死していた。自殺者の多発は、その後に起こっている。アフリカでの梶尾の活動を探ると、彼は難民キャンプで医師の手伝い(梶尾は看護師)をしていて、難民の皆に慕われていた。しかし彼の周りでは、重症の難民が多数死んでいた。噂では、梶尾が薬品を盗んで安楽死させていると。梶尾はその後、キャンプを解雇されている。
 また相棒の医師が突然帰国し、その地で自殺していた。さらに、梶尾の活動を知っている日本の外交官2人が自殺・死亡していることが判明。手口は、冒頭の官僚(梶尾を嗅ぎまわっていた)の手口と一緒である。梶尾を嗅ぎまわった者は「自殺」させられているのだ。
 その凝った手法には、犯行への揺るぎない信念が感じられる。己への存在証明か、強固な自負がなければここまで凝った殺し方はしないだろう。やがて、梶尾の日本での潜伏先が判明するが、すでに姿を消していた。
 警察庁も、あまりにも問題が大き過ぎるために「事件を闇に葬る」方針を固め、井岡たちに圧力をかける。本書のクライマックスは、広域暴力団の組長が成田空港に誘い出されて突然死することだ。梶尾の復讐の旅が終わったのである。

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