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2023年01月28日12:11

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読書紹介2264●「秋萩の散る」 

●「秋萩の散る」 澤田瞳子著 徳間書店 16年版 1500円
 時は753年、孝謙天皇(阿倍女帝)の時代から始まる。本書では、女帝時代の遣唐使の経験者や大学寮の学生(10代)たちと政権中枢部での権力争いとの関係が描かれる。又、女帝晩年の10年間に寵愛された道鏡の困惑など5編が収録されている。
 第1話「凱風(がいふう)の島」は、遣唐使船が帰国の途中、沖縄での正使と副使の諍いが描かれる。この船には鑑真和尚の一団と、唐で科挙に合格し唐朝の高官になった阿倍仲麻呂も乗船していた。
 ところが、沖縄を発った第1船は台風に押し流されベトナムへ。第1船には正使と阿倍仲麻呂が乗船していて、彼らはついに日本に帰ることができなかった。第1話では、正使と副使の諍い(鑑真和尚の扱いを巡る)の事情が描かれる。
 題名の「秋萩の散る」は第5話で、阿部女帝の崩御後下野国に追いやられた道鏡の、女帝に対する愛憎半ばする思いが描かれる。道鏡は女帝に寵愛され、太政大臣禅師、法王などの高職に就いたにもかかわらず、根が臆病であった。
 女帝は、道鏡の度重なる辞意を無視して道鏡を引き立て、遂には帝位すら譲ろうとした。彼女の死後、道鏡は女帝に取り入り帝位を簒奪せんとした妖僧・破戒僧という、およそ真実とは異なる噂を流された。その噂は、東国にまで知れ渡っていた。
 要は、宮城の高官たちが女帝のすべての罪咎を、道鏡1人に負わせるための処置だったのである。道鏡は思う、彼ら高官は知らぬのだ。女帝ほど気高く、心優しくーーそして孤独であったかを。
 女の身でありながら、父より譲られたこの国を守らんと奮闘し、御仏の力を得て国を安寧に導くべく、どれほど煩悶しておられたかを。と思う一方、今の道鏡の境遇を招いたのも女帝であることを思うと、その過大な寵愛に対して怨みさえ覚えてしまうのであった。
 そんな道鏡の弱みにつけ込み、道鏡に「呪詛」を吹き込む破戒僧が道鏡に忍び入ってきて・・・。という物語。本書には、阿倍女帝の時代(2度天皇位に就いた)の雰囲気が浮かび上がってくるのでした。

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