mixiユーザー(id:2810648)

2022年04月16日12:59

10 view

読書紹介2172●「イアウラームからヨーロッパをみる」

●「イアウラームからヨーロッパをみる」 内藤正典著 岩波書店 20年版 900円
 ネットをみていて、著者がロシアのウクライナ侵攻に関して「ソ連のアフガン侵攻と同じ結果になり、必ず失敗する」(趣旨)と予言していたので、著者の本を探して読んだ本。著者の専門は、現代イスラーム地域研究である。
 本書の中で、特に注目したのがトルコの存在であった。トルコは、オスマン帝国時代にヨーロッパに多くの支配地域をもっていたことから、「アジア人」であると同時に、ヨーロッパの深部にも位置していた国であった。トルコは現実に、ヨーロッパとアジアの架け橋なのである。
 トルコはNATOの一員である。59年にEUの前身であるEECへの加盟交渉を開始。63年には、EUの「準加盟国」協定に調印し、96年にはEUとの関税同盟に参加。しかしEUは、2006年に加盟交渉を一方的に中断して理不尽な要求をトルコに押し付けている。
 06年までのEUは、イスラム過激派のテロを経験したことからこそトルコを仲間に引き入れようとし、その後、同じテロを理由にトルコを拒絶したのだ。15年現在、トルコには358万5000人の難民が滞留している。著者は、トルコがEUに加盟していれば、今日のようなイスラーム排外主義は起こらなかっただろう、としている。
 11年にシリア内戦が始まると、トルコのエルドアン首相は、自国民を無差別に殺戮したシリアのアサド政権の暴虐を厳しく批判した。そして、トルコに逃れてきた人びとを受け入れたのだ。困った人がいれば、助けるのがイスラームの教えであるからだ。ましてや、シリア難民はトルコと同じスンナ派のムスリム(イスラム教徒)である。
 欧米は、11年のアメリカの9.11テロを境にムスリム排外主義へと転換していった。本書では、その転換の理屈(不当な)とヨーロッパの事情が描かれる。その中で、第2次大戦後に移民としてヨーロッパ各地に渡って来たムスリムたちの2世・3世がムスリムに再覚醒していく事情。また大戦後に世俗国家として建国していったイスラーム諸国(トルコを始め)の貧困層が、ムスリムとして再覚醒していく事情を克明に描いている。
 そんな、イスラーム社会の深層で何が起きているかを、本書では描いていくのだ。その再覚醒の重要なきっかけとなったのは、大戦後の中東、アフリカ、アジアの至るところで日々、ムスリムが命を奪われ、生きる権利も平安も暮らす権利も奪われているという事実があることを、著者は強調していたのでありました。

0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2022年04月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930