●「美姫血戦ーー松前パン屋事始異聞」 富樫倫太郎著 実業之日本社 05年版 1700円
本書は、2つの事件を同時進行させた小説。1人は松前藩の重臣の娘・蘭子(17歳)が、もう1人は城下の和菓子屋・小野屋の主人・藤吉が主人公。
藤吉は、北海道を支配した旧幕府軍の人見(松前奉行に就任)から、戦時の兵隊の携帯食としてパン作りを命じられる。資金は150両であった。それは、「和菓子屋ならパンも作れるだろう」ということと、蘭子姫の推薦があったからだった。
しかし藤吉は、パン作りがまったくわからない。そこで伝手を頼って、函館のロシア領事館に出向く。そこには、パン作りの助手をしている次郎吉がいたのだ。パン作りの工程を見学できたが、一番肝心な「パン種」のことがわからない。次郎吉もわからないと言う。 ロシア料理長なら、金を払えば教えてくれるというので交渉すると「300両だ」という。とても払える額ではない。そこで藤吉は、パン種を盗む決心をするのだが・・・。ということで、さんざん苦労したあげく藤吉はパン作りに成功することに。これが1つの物語。
もう1つの物語である、蘭姫のことである。松前藩はもともとは佐幕派だったが、藩主の死去後に後を継いだ病身の藩主が勤王派となった。ここで、両派の争いが起こる。蘭子の父は前藩主に仕えた重臣だったから、佐幕派であった。そこを、下国という下級家臣が尊皇派としてのし上がり、クーデターを起こしたのだ。
蘭姫に父親は、下国に殺される。蘭姫は、その復讐(仇討ち)のために、松前奉行となった人見のもとに身を寄せ、旧幕府軍に協力するのだ。ということで、蘭姫と人見の旧幕府軍から見た北海道戦線の戦いの場面が描かれていく。
ここでは当初、人数では新政府軍の半数に満たない旧幕府軍が勝利していく理由が史実を基に描かれる。しかし、本土から次々に増員される新政府軍の兵員と、4千メートルを飛ばす新型艦船の艦砲射撃で、旧幕府軍は追い詰められていく。なぜなら旧幕府軍の砲台では、2千メートルしか弾は飛ばないのだ。
こうして、次々に戦死していく旧幕府軍の人々の姿(最後は蘭姫も)が描かれていくのでありました。
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