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2020年10月12日09:48

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読書紹介1981●「孤拳伝1〜4」 

●「孤拳伝1〜4」 今野敏著 中公文庫 08〜09年 各724円
 本書は格闘技小説であり、1人の少年の成長物語でもある。時は90年代初頭、主人公の朝丘剛は17歳。香港の暗黒街・九龍城砦でストリートファイトに明け暮れていた。剛は生きるために、中国武術の道場を盗み見て、形意拳の1つ(5つある)「崩拳」を憶え、独力で身につけていたのだ。
 剛は母(日本の暴力団員に香港に売られ、剛を生んでスラムで死んだ)の怨みを晴らすため、日本に密航を図る。貨物船の労役に耐えた剛は、自分の足腰が鍛えられ「崩拳」の技が格段に上達したのを感じた。
 横浜に着いた剛は、横浜の新興暴力団の用心棒となる。ストリートファイトの実力が認められてのことだった。横浜では劉老師という華僑の顔役に見い出され、あらためて形意拳の五行拳(崩拳もその1つ)の教えを受けることに。だが、仇(実の父)の行方をつきとめた剛は、戒めを破り老師のもとをあとにした。
 1人暴力団事務所(父が組長の)に殴り込んだ剛は、仇を殺して逃走を図った。奥多摩の山中に逃走した剛は、山中で野獣のような生活を送る。ここでも、習った中国武術の修行を怠ることはなかった。
 ほとぼりが冷めた(暴力団同士の抗争とみなされた)剛は、町中に戻り暴走族の抗争に遭遇し身を投ずる。彼の本能が戦いを求めてやまないのだ。こうして、暴走族のなかでのし上がった剛だが、総長の理不尽な振る舞い(部下の女を奪う)にたてをつき、総長を叩きのめした。こうして、再び横浜に戻ったのであった。
 横浜では、剛のストリートファイトを見た松任組の組員に声をかけられる。異形の強者たちが集まる「闇試合」に誘われたのだ。秘密の格闘技興行に興味をもった剛は、その誘いに乗った。
 こうして、剛の戦いの日々が始まる。そこで剛は、戦いとは闘争心と残忍さがすべてだと思うようになる。邪拳の様相を帯びる剛の拳は、次々と相手をなぎ倒していった。倒れた相手に止どめを刺そうとした剛は、見学に来たかっての老師にストップをかけられる。その替わりに、老師が剛の相手になった。老師と剛の対決は、訳がわからない内に剛が倒される結果となった。剛にダメージがないが、老師に勝つことができないのだ。
 ということで、横浜を出奔した剛は、強者を求めて武者修行の旅に出る。その中で、不思議なまでに勝てない相手、山の民・由佐肇に会う。由佐にはかって、奥多摩の山中で助けられたことがある。山の中の生活の仕方を教わったのだ。由佐の技は、山の民の生き方に基ずく技で、勝つためのものではなかった。
 その後、柳生新陰流や宮本武蔵野の二天一流の免許皆伝者や、古式の柔術などとの対決の中で、古式の武術の奥技を学ぶのであった。その後の、各地の空手道場などでの「道場破り」の中で、剛は相手をこれまでのように叩きのめすのではなく、寸前で止めてしまうようになる。それを剛は、「軟弱になった」と思った。それが自分の成長の証であることに気がつかなかったのだ。
 やがて沖縄の渡った剛は、沖縄空手のストリートファイターの第1人者・屋部と対決して勝利する。屋部は、人間は「恐ろしいから戦う」のだ、「大切なのは、恐怖を飼い馴らすことだ」と言う。そして、「強さというのは、自分自身に対してのものだ」と。
 ここで剛は、屋部に自分の技を伝えたいと願う沖縄空手の老人に出会う。老人と勝負すると、劉老師と同じことが起こった。打とうする瞬間に、倒されてしまうのだ。老人は、人間の最大の武器は知恵であり、武術や武道はその助けに過ぎないと。
 こうして古式の沖縄空手を修行した剛は、横浜に戻り劉老師と対決するのだが・・・、という物語。本書は、「武術、武道とは何か? 何のためにあるのか」ということを、歴史を含めてあらゆる側面から描いた本でもありました。
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