●「本所深川ふしぎ草紙」 宮部みゆき著 新潮文庫 95年版 590円
本書は、「本所七不思議」といわれる言い伝えをもとに、7話の物語が語られる。7話全部に、脇役として「回向院の親分」こと岡っ引きの茂七(50歳)が登場する。茂七は最後に、主人公たちに「困ったことがあったら、いつでも言ってきなよ」と声をかけるのだ。
第7話の「消えずの行灯」とは、ある二八蕎麦屋の掛け行灯の火が、雨の日も風の日も、いつも同じように燃えていて、消えたところを誰も見たことがない、というもの。文化4年(1807)の永代橋崩落で、10歳の娘を失った商家のお内儀が、「娘が生きている」と信じることが、『消えずの行灯』となって、生きてゆくための足元を照らしている。
その狂ったお内儀のために、「記憶をなくしているが、生きていた」と騙して、20歳の娘をお内儀の傍に居させることとなった。その、失った娘に「よく似ている」というだけで、読み書きができず頑なな娘・おゆうが代役にさせられる。その、おゆうという貧しい庶民の娘の想いが、本編で描かれるのだ。
おゆうは、この胡散臭い話をもってきた小平次を信用できなかったが、雇い主の貧乏蕎麦屋の夫婦が、「旨みのある話を断った」として、おゆうを店から追い出してしまう。路頭に迷ったおゆうに声を掛けたのが小平次で、岡っ引きの茂七も事情を知っていたのだが・・・。という物語。
下町人情の世界が垣間見られる、素敵な小説でした。
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