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2018年11月29日12:20

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読書紹介1782●「アフリカの蹄(ひずめ)」

●「アフリカの蹄(ひずめ)」 帚木蓬生著 講談社文庫 97年版 667円
 アフリカの蹄とは、アフリカ大陸が牡牛の形をしていて、その蹄部分。つまり、南アフリカをさす。本書の主人公・作田信は、30歳の心臓外科医。留学で、南アフリカにやってきた。この国では、簡単に手に入る黒人の死体と臓器が、白人のために移植させる症例がそろっていたのだ。
 この国は、400万人の白人が2500万人の黒人を支配するアパルトヘイトの国だった。この国で白人は、自分たちは脳細胞で黒人は体細胞だと豪語する。黒人には市民権どころか、国籍さえ「不明」とされ与えられていないのだ。
 この国で日本は、各国が制裁で貿易を中止しているなか、輸出25億ドル・輸入20億ドルのサンバーワンの貿易相手国であった。その見返りは、日本人に「名誉白人」の称号が与えられるという、恥ずべき優遇であった。
 作田は、町のスラム地域の診療所の医師と知り合い、その手伝いを始める。おりしも、黒人の子供たちの間に奇妙な病気が蔓延しだし、子供たちが次々と亡くなっていくのだ。ウィルス性の伝染病が疑われた。
 作田は、旧知のウィルス専門医に患児を連れていくと、その病原体が痘瘡ウィルスだと判明する。天然痘である。天然痘は1980年にWHOで絶滅宣言され、危険なワクチンの保存は、アメリカ・ソ連・フランスに限られ、他の国からは全て回収されているはずだった。しかし、南アフリカでは密かに痘瘡ウィルスの種痘が保存され、白人の幼児に種痘が施されていた。きたるべき日に、役立てるべく。
 この国の政府が、黒人との協調路線をふみだし始めたこの時期、白人極右勢力(軍隊・公安警察を握っている)は、「白人だけの国」を南アフリカ内に樹立しようと目論んでいた。こうして、黒人に対する残虐行為は着手される。幼児がターゲットにされ、痘瘡ウィルスがスラムにばら撒かれた。そればかりか、アメリカに保存されている20トンの種痘を火事によって消滅させられ、ソ連・フランスに保管されていた種痘も、何者かにすり替えられていた。ナチスのホロコーストに次ぐ残虐行為だった。
 ということで本書では、南アフリカの差別撤廃の闘いと、作田による痘瘡ウィルスの国外脱出と、それをWHOに届けるための冒険行が描かれる。作田の、人間としての内心に恥じることのない豊かな精神性、差別に立ち向かう姿に胸がうたれることになるのでした。

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