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2018年11月25日08:26

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読書紹介1781●「長く高い壁」 

●「長く高い壁」 浅田次郎著 角川書店 18年版 1600円
 「長く高い壁」とは、万里の長城のこと。主人公の従軍作家・小柳は、人気の探偵作家ということで、北京から密雲の張飛嶺(長城の1つ)守備隊に派遣された。張飛嶺で、守備隊第1分隊10人全員死亡の原因を探るよう密命を受けたのだ。小柳には、北支那方面軍司令部の検閲班長(東大出で小柳のファン)の川津中尉が同行。張飛嶺には、密雲憲兵隊の小田島曹長が引率した。
 やっとこ現地に到着した小柳は、早々に関係者の尋問を始めたが、真相を究明してもその結論が帝国陸軍にふさわしからぬものであれば、公式報道を捏造しなければ自分の命に関わることになることに気づいた。
 ここ密雲は、共匪からのゲリラに備えるため1千人の軍隊が駐留していたが、蒋介石軍追討の武漢攻めのために30人を残して移動したばかりであった。調べてみると、この30人は揃いもそろって不用兵・不良兵で、地元住民の虐待を繰り返ししていた。
 こうして、本書は小柳の探索をつうじて日本軍の性質がこと細かく描かれる。謀略がすっかり習い性になった関東軍による支那事変の発端から、大義のない戦いが続けられていること。戦う理由がわからない、わけのわからない戦争をしていること。そんな戦争の中で、日本軍は軍隊としての正体をなくしていることが描かれていくのだ。
 探索の結果、小柳も川津も小田島も、これは皆が主張する共匪のゲリラにやられたのではなく、毒物による分隊内部の犯行であることに気づくが、そんなことを北京の本部に知らせることはできないことだった。
 やがて小柳の推理が開陳されることとなるが、そこには思わぬ人物のやむにやまれぬ思いが凝縮していたのであった・・・。という小説。先の戦争の真実が、張飛嶺という舞台を借りて見事に描かれているのでありました。
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