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2018年09月06日07:03

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読書紹介1758●「名もなき毒ーー杉村三郎シリーズ2」

●「名もなき毒ーー杉村三郎シリーズ2」 宮部みゆき著 幻冬社 06年版 1800円
 三郎は菜穂子と結婚して8年。1人娘の桃子を得ていた。菜穂子の父には結婚に賛成してもらったが、三郎の両親と兄・姉には拒否された。結婚するなら絶縁すると。母には、「女のヒモになるのか」「男の誇りを捨てるのか」と詰られた。
 母の言葉にはいつも「毒」があったので、それには慣れていた。しかし、1本の糸を残しただけで本当に絶縁されてしまった。たまにかかる電話では、菜穂子のことも義父のことも振れようとはしなかった。
 本書では、青酸カリによる無差別連続殺人事件と、今多コンツェルグループ広報室(三郎は副編集長)のアルバイト原田いずみの解雇を巡る問題が交互に描かれる。原田の吐く毒とは、嘘という毒である。嘘を吐き続ける人間が、自分の怒りに触れる人間に感情のままに毒を吐き続けていくと、どんな結末を迎えるかが描かれる。
 原田の怒りに触れる人間とは、資産家の娘と結婚し裕福な生活をしている三郎という人間のことである。三郎の妻と娘が襲われ、娘を人質に原田は立て籠もるのだ。どんなに理不尽であっても、彼女には許せないのだ。自分ではなく、他人の幸せを間近に見ることが。そのおぞましい毒は、読んでいる者にも侵潤してくるような凄まじさであった。
 本書の中で、三郎の義父が青酸カリ殺人について「他人の命を奪う。それは人として極北の権力の行使だ」と言っている。財界の大立者といわれる義父が、そんな権力を行使する人間に対して、自分を「無力で、虚しい」と表現する。彼には、権力とは「重荷」そのものであったからである。

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