●「アムステルダム・ヘブン」 又井健太著 河出書房新社 17年版 1500円
ブラック企業に働いてストレス太りした40歳の賢治は、自殺するため公園の枝にヒモを通していたところ、突然なだれ込んできたAV撮影隊にじゃまされる。
賢治を見たAV女優・真央から、「自殺するなら一緒にしよう」と誘われる。ラブホテルで一夜話し込んでいるうちに、賢治は自殺のことは忘れてしまう。ところが、早朝にホテルを出ていた真央は、賢治に遺書を残して自殺していたのだ。真央は、AV業界という過酷なブラック企業の中で、脳を病んでいたのだ。
その真央と賢治がホテルで一夜語り合ったこととは、ホワイト企業を立ち上げて自殺に追い込まれた人を救う会社を作ることであった。そのための資金として、真央が体を張って溜めこんだ3500万円が賢治のもとに渡されたのである。
ということで、ホワイト企業を立ち上げるための人材を募り(真央が褒めていたAV界の人物)、日本ではなくオランダで会社を作る話が描かれる。なぜオランダなのか。それは、オランダが日本と真逆な国(労働時間が短いのに、生産性は日本よりいい。煙草は規制されるが、マリファナは規制しない。同性婚を早々に法律化した。人間の欲望に寛容だ等々)だったからであった。
こうしてオランダで人々と交流していくなかで、人を自殺に追い込んでいるのはブラック企業のせいばかりではなく、日本社会そのものに原因があることに気づく、という物語。ホワイト企業を作って、人を救おうというテーマが気に入って読んだ本。面白い発想であった。
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