●「天皇の刺客」 高橋直樹著 文芸春秋 06年版 2190円
本書の主人公は、曾我兄弟である。曾我兄弟とは、「父の仇打ち」としか知らなかったが、本書を読んでようやく事情を知った。
兄弟の本来の名字は、伊豆第1の大名・伊藤（曾我は、再婚した実母の嫁ぎ先の名）である。本書のキーポイントは、�〔昌�、�∧次覆弔錣發痢縫瞭擦任△襦Ｌ昌�とは、祖霊（神）の宿る地の「名」のことで、その名字を名乗ることができなくなった兄弟には、「兵ノ道」（仇討ちを果たす）を全うするしかなかったのだ。
兄弟の父は、伊藤の身内でもある工藤廷尉に祖父・伊藤祐親と間違えられて殺された。伊藤家と工藤家は、祖父の代から殺し殺されが続いていたのだ。この祐親が東国の雄（平家に従って）として君臨していた所に、源頼朝が流人として東国にやって来た。平家との絆をより強めようと「頼朝抹殺」を企てた祐親だったが、やがて房総に逃げ延びた頼朝に打ち取られてしまう。ここに、伊藤の名字が消滅したのだ。取って代わったのが工藤家で、工藤廷尉は頼朝の腹心となった。
ところで、東国の武士は「兵ノ道」に生きる者達であったが、源平の戦いはこの武士達が「敵・味方」入り乱れて戦ったもので、「兵ノ道」を貫いてしまうと成立したばかりの鎌倉幕府は崩壊してしまう。そこで頼朝は、仇打ちを「私怨による私闘」として堅く禁じたのである。こうして兄弟の生きる道は、頼朝によって閉ざされてしまった。
「亡父の仇は工藤廷尉。だが伊藤家の仇は鎌倉殿」ということで、閉ざされた道を拓くには天皇にまで辿り着き、その宣旨を獲得して、「天皇の刺客」となって頼朝を討とうと図ったものがたりが本書である。
本書では、その兄弟の絆をテーマにしたのでありました。
ログインしてコメントを確認・投稿する