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2016年10月08日13:11

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読書紹介1578・「マイ・ブルー・ヘブン」

●「マイ・ブルー・ヘブン」小路幸也著 集英社 09年版 1500円
 東京バンドワゴンのシリーズ4。今回は、これまでの人情モノとは違って、終戦直後の動乱を描いていた。昭和20年の敗戦直後、東京バンドワゴンの2代目堀田草平の時代で、勘一は20歳そこそこの医学生。本書では、勘一の妻となるサチ(本名・五条辻咲智子)の家に、ある日突然に米兵が踏み込んでくる場面から始まる。
 18歳のサチは、父・政孝に「ある政治に関わる文書」が入っている箱を渡され、静岡の叔母の家に行くようキップを手渡される。政孝は天皇の側近くに仕えていた人物で、その文章は天皇に関わるものであったのだ。こうして本書は、この文章の争奪戦をめぐる争いがテーマとなっていくのだ。
 上野駅に向かったサチは、ごった返す駅構内ですぐさま米兵3人に取り囲まれてしまう。それを救ったのが勘一だった。勘一に手を取られて東京バンドワゴンに向かったサチは、そこで草平が政孝の英国ケンブリッジ留学時代の先輩であったことを知る。草平は、サチが持つ文章が公表されたら、日本を再びひっくり返す力があるものであると予想したのだ。
 堀田家は、初代の時は三宮という華族だった。初代は、政財界で活躍した人物だったが、政財界の裏面に嫌気をさし、華族を辞め古本屋を始めたのだ。そんな家に育った草平は、将来は「新聞社」を開業しようとしていたが、時代の趨勢により断念。2代目を継いだのだ。それも、初代が築いた人脈その他も全て引き継ぐことによって、今も政財界に隠然たる影響力を持っていたのだ。
 ということで、すぐさまサチを護るための人物が集められた。混血の若き貿易商の高崎ジョー。美貌のジャズ・シンガーのマリア。元・日本陸軍情報部の和泉十郎ら。サチの両親は、米兵によって何処かに拉致監禁されてしまう。東京バンドワゴンの面々は、その居場所を探ると同時に、サチとサチの持つ文書に群がる闇の者たちと対峙していくが・・・。という物語。
 本書で印象に残ったのは、堀田家の家訓「文化文明に関わる些事諸問題なら、如何なる事でも万事解決」で、それは、堀田家がお節介でも人のために尽くすのを心情とする家訓であった。「何かを得た人間は、その得たものをどう使うかで値打ちが決まる」というもの。
 本書は、戦後の動乱期を活き活きと描いた小説でした。

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