●「日本の『運命』について語ろう」 浅田次郎著 幻冬舎 15年版 1200円
本書は、著者の作品についての講演を本にしたもの。日本の運命とは、幕末、幕末以降の近代の歴史のことである。それを知らなければ、「自分の今、こうしてある座標」がどこにあるかがわからないからである。だから著者の歴史小説の守備範囲も、そこに限っているのだ。
本書の中で、日米関係を論じているところがあった。1854年、幕府が米国と日米和親条約を結んだ(58年には日米修好通商条約も)こと。同様の条約が英・仏・オランダ・ロシアとも締結されたが、先に条約を結んだ米国は、いわゆる「最恵国待遇国」となった。これによって2番目以降の国は、最恵国の利益を削り取るような条約を結んではいけなくなったのである。この原則は、今でも通ずる大原則なのだ。具体的には、日米修好通商条約で「日本とヨーロッパのどこかの国とトラブルが起こったときは、アメリカ大統領が仲介する」旨が記されていること。
つまり米国は、明治・大正を通じて日本に最大の影響をもたらし続け、留学生の数も米国がもっとも多かったのだ。だから日米関係は、太平洋戦争の4年間だけが悪く、あとはずっといい関係にあった、ということである。
「二度と戦争を起こさないために」という章では、8月9日ソ連軍が満州国境を突破したときの軍隊が160万人だったこと。第二次大戦のノルマンディ上陸時の連合軍の数は17万6千人だったこと。戦死者の数は、日本が3百万人、ドイツが8百万人、ソ連が2660万人だったこと。だからといって、ソ連の無法が許されるわけではないが、戦争なんてものは2度と起こしてはならない。歴史を知るのは、自分たちの立ち位置を知るためであって、正当性を声高に言いつのるためではない、と結論づけている。
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