●「刺客百鬼ーー御隠居忍法9」 高橋義夫著 中央公論新社 11年版 1500円
今回は、笹野藩のお家騒動である。主人公の狸斎が殿様の幼いご落胤を守って、雪国の笹野から江戸まで刺客に追われる、という物語。笹野藩の現当主(江戸にいる)は養子である。正妻との間で、世継ぎは正妻と血の繋がりのある者にする約束をしていた。2人の間には、男子が生まれなかった。そこで女子に養子をとることとなったが、その女子が他界していなくなってしまったのだ。
秘密にしていたが、殿には国元にいる妾に5歳の男子がいた。それを知った正妻は、この男子の暗殺命令を出す。一方、この男子の誕生を知っている者たちが、男子を江戸に送り殿の認知を得て、正式に世継ぎとして認めさせようと笹野藩脱出を図る。
その暗躍の中で、狸斎の親友・耕民が暗殺される。耕民には、かねてから狸斎宛ての遺言があった。それが、「若君を無事に江戸に送り届けてくれ」だったのである。耕民と狸斎は江戸時代に、息子と娘を結婚させていた仲であった。
ということで、道中、刺客との乱戦を繰り返しながら江戸へと向かう狸斎たちであった。それは仙台領の岩沼から奥州街道と分れ、海沿いの脇街道を行き、現在の福島県の浜通り地方を通って水戸に至る道程であった。
ところが、連載が福島の相馬領に移るあたりで、3.15の大震災が襲ったのだ。従って原稿には、「せめて破壊される以前の海辺の美しい風景を思い浮かべて書いて」いく、ということになったのでありました。
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